洗浄におけるPRTR法指定化学物質の排出量等の算出法

(株)ダン科学 平塚 登

 「特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律」が1999年7月に制定され、具体的内容も2000年3月の施行令で公布された。すなわち第一種指定化学物質の年間取扱量が1トン以上(当初2年間は5トン以上)で常用雇用者が21名以上の事業者は対象化学物質の年間の排出量や移動量を算出して国に届け出ることが2002年4月からいよいよ実施段階に入る。

 第一種指定化学物質の中には洗浄剤として使用されているものや、洗浄剤成分の一部として添加されているものがあり、製造工程で洗浄を行っている事業者にはPRTR法の対象となる可能性がある。

 日本産業洗浄協議会では、法の対象となる洗浄を行っている各企業の洗浄担当者の方々のために洗浄剤別の届出に役立つ算出法マニュアルを作成した。本セミナーでは算出マニュアルの中から水系洗浄と塩素系溶剤洗浄の部分を選んで要点を紹介した。

(1)水系洗浄

 洗浄剤に含まれる界面活性剤やキレート剤等のなかに対象化学物質に該当するものがある。その場合には産業廃棄物として処理業者に渡す使えなくなった洗浄廃液中の対象化学物質量を移動量として数える。一方常時でるリンス排水については通常は排水処理装置にかけて処理水を公共用水域または下水道へ放流している。この場合は物質収支の関係を用い年間取扱量から洗浄廃液分を差し引いて先ずリンス排水中の対象化学物質量を求め、それから処理装置による除去分を引けば放流された排出量が算出できる。ただしこれを下水道へ放流する場合は排出量とはせず、下水道への移動量とし、廃棄物移動量とは区別して届け出る。除去分のうち若し処理で無害化される分があれば、それを引いた残りは処理汚泥に含まれ廃棄物となるので、先の洗浄廃液の分に加えて廃棄物としての移動量として届け出る。

 洗浄廃液量から対象化学物質の移動量を算出するには、混入している除去汚れの油分量を引いてから対象物の含有率を掛ける必要がある。油分量は通常分析して求めるが、会員の洗浄剤メーカーの過去の廃液データを調査した結果、平均すると水溶性の油を洗浄した場合は4.8%、一般の油の場合は0.4%であるので、分析が困難な場合は算出係数としてこの値を用いることを提案している。

 水系洗浄では大気へ排出される対象化学物質は考えられず、正常作業では土壌への排出もないので、これらの項目の届出はゼロとする。

(2)塩素系溶剤洗浄

 第一種指定化学物質であるジクロロメタン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレンの単一成分を用いて行う洗浄で、通常3槽式洗浄装置が用いられる。工程からの排出源としては洗浄槽からの蒸発や、品物と洗浄治具に付着した溶剤の蒸発で大気へ揮散するものと、蒸気槽や蒸留器の釜残液として出る洗浄廃液、洗浄槽の清掃の際に出る洗浄剤廃液、水分離器から出る洗浄剤を溶解した分離水、排ガス処理に使われた廃活性炭等の廃棄物とがある。

 対象化学物質すなわち洗浄剤の排出量と移動量を算出する方法には、物質収支法と排出係数法とがあるが、排ガス処理の有無によって、さらに有る場合でも交換型活性炭方式か回収再生活性炭方式かによって算出手順が変わってくる。

@ 物質収支による方法は先ず各種の廃棄物源について対象化学物質量を把握し、それらを合計して廃棄物としての全移動量を算出する。年間取扱量から全移動量を引けば大気への排出量が求められる。ただし移動量の届出から有価物として売却した溶剤分は除外する。

A 排出係数を用いる方法は年間取扱量に各溶剤に定められた排出係数を掛けて直接大気への排出量を算出する。大気排出量を年間取扱量から引いた値が廃棄物としての移動量となる。ただし有価物として売却した分があればその量を差し引いて移動量を届け出る。

 排ガス処理が行われている場合には、先の計算で求めた大気への(潜在)排出量から活性炭で吸着除去された量を引いて大気への実排出量を算出する。廃活性炭に吸着して廃棄される洗浄剤分は移動量に加えて届け出る。

 回収再生活性炭方式を採用している場合は排ガス処理活性炭のスチーム再生処理で廃水が出るが、曝気処理をして各塩素系溶剤に定められた排出基準濃度以下にして放流しなければならない。この曝気処理をすると水域への排出量は通常ゼロとして扱える。

 蒸気槽や蒸留器の釜液や、洗浄槽の清掃液を廃液に出した場合は混入している油分等の汚れの量を除いた溶剤量を求める必要がある。簡便な測定法として沸騰温度。常温での液比重、加熱揮散後の重量を測定する方法が紹介されている。

 以上の算出手法を説明した後、計算事例を示した。

 最後に届出後の事業者の指定化学物質の排出剤減努力の必要性を強調した。

 

(これは、「第14回洗浄技術セミナー(平成14年2月22日開催)」より、講師のご好意で作成頂きました“要旨”です。)

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