水系洗浄剤の界面活性剤の動向

(元)ミヨシ油脂株式会社
二宮 守男

 特定フロン・エタンの全廃にともない塩素系、アルコール系、グリコールエーテル系などの洗浄剤とともに界面活性剤を主成分とする水系洗浄剤が注目されている。精密部品の水系洗浄剤は10数年前から検討が行われていて、これまでにいろんな基質や汚れに対応できる洗浄剤が開発されてきた。しかし、PRTR法の施行により水系洗浄剤で使用されている有力な界面活性剤、例えば直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルなどが対象物質に指定された。また産業用洗浄剤以外の用途にも広く使用されているこのポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルの原料であるノニルフェノールが環境ホルモン(内分泌かく乱物質)の疑いが持たれている。塩素系溶剤は法規制や発癌性の問題などもあるので、より安全でPRTR法にも該当しない界面活性剤を使用した水系洗浄剤が要望されている。

 フロンや塩素系の溶剤の洗浄作用は汚れ成分に対する溶剤の浸透力や溶解性が主な因子となっているが、溶剤に不溶性の無機質の汚れはほとんど除去されない。これに対して水系洗浄剤では界面張力の低い洗浄液が基質や汚れの表面をぬらし、汚れの中に浸透することから洗浄過程が始まる。そして基質から離れた汚れはミセルへの可溶化、油状汚れの乳化、コロイド状の固体汚れの分散など界面化学的な作用で洗浄される。さらに洗浄液にアルカリ成分を添加することによって、油脂類のケン化や酸性物質を中和するなど化学的な作用のほか物理的な作用も加わって洗浄される。

 水系洗浄剤が使用される分野は金属加工部品、自動車用部品、電機・電子部品、精密加工部品など多岐にわたっている。また対象となる汚れ成分は各種の金属加工油、グリース、潤滑油のほか金属粉などの無機物や高分子物質である。無機質の固体粒子汚れの洗浄は物理的な方法でも除去できるが、この汚れが水溶液中でコロイド状の粒子となった時には安定した状態で分散していることが重要である。基質の表面が油状物質で汚れている場合は、界面活性剤が油性汚れの表面に吸着あるいは浸透して基質表面からローリングアップの作用で離脱し、さらに乳化、分散あるいは可溶化されて洗浄がおこなわれる。

 今回の洗浄技術セミナーでは、@産業用洗浄剤に使用される界面活性剤、A界面活性剤の特性と洗浄プロセス(界面活性剤の水溶液中での挙動、界面活性剤の作用、油性汚れの除去、固体汚れの除去)、B洗浄助剤の効果、C界面活性剤の環境問題、DPRTR法と今後の界面活性剤、などを紹介した。洗浄の過程はこれまで研究されてきた洗浄の理論と共通することが多い。各種の精密部品ではより高度な洗浄性が要求されるので、アニオン界面活性剤や非イオン界面活性剤を単独で使用するより洗浄助剤を配合するなどした製品が開発されてきた。しかし安価で高い洗浄力を有し、これまで重要な役割を果たしてきた非イオン界面活性剤がPRTR法の対象物質に指定されたこともあって、精密洗浄における泡の弊害や界面活性剤の吸着残留さらにはすすぎ工程を考えた場合、これからの水系洗浄剤にはより低起泡性の非イオン界面活性剤が重要となってくる。例えば、分子中にポリオキシプロピレン基とポリオキシエチレン基を併せ持つ非イオン界面活性剤と洗浄助剤からなる水系洗浄剤が今後の主流となるだろう。

(これは、「第15回洗浄技術セミナー(平成14年6月21日開催)」より、講師のご好意で作成頂きました“要旨”です。)

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