地球環境にやさしいNovecTM HFEを使用した洗浄システムの紹介

住友スリーエム株式会社
化学製品事業部 技術部
安藤 伸明、薄井 孝史

 フッ素系洗浄剤<Novec>HFE(ハイドロフルオロエーテル)はフロン・エタンの代替洗浄剤として1996年に上市され、特定フロン代替洗浄剤に求められる@環境特性A安全性B性能という特性をバランスよく備えている。環境特性:オゾン破壊係数が0であり特定フロンとはまったく異なる物質である。また地球温暖化係数(GWP)もHFE−7100で320と特定フロン113(GWP=6000)の約1/18となっている。安全性:引火点を持たない。また塩素系溶剤と異なり許容濃度も比較的高めに設定されている。性能:KB値はHFE−7100、HFE−7200ともに10であり、溶解性がPFCに比較して改善されている。また密度が大きい、乾燥性に優れるといったフロンの良い面を引き継いでいる。部材との適合性も優れているため、洗浄対象ワークに与えるダメージを最小限にすることができる。

 さらに、<Novec>は国内の法規制の面(労働安全衛生法、オゾン層保護法、地球温暖化対策推進法、大気汚染防止法、水質汚濁防止法、消防法、PRTRなど)でも、他の塩素系洗浄剤やフッ素系洗浄剤、炭化水素系洗浄剤のように規制を受けることなく使用することができる。

 <Novec>を使用した洗浄システムとしては3種類ある。軽質油系や除塵ではHFE−7100またはHFE−7200のニート洗浄(一液洗浄)、重質油系やグリースには<Novec>のコーソルベントシステム(洗浄剤との組み合わせ)を適用すると良い洗浄性が得られる。また、水系洗浄システムと組み合わせたHFE−71IPAの水切り乾燥システムもある。<Novec>HFEは洗浄用途だけでなく、溶剤、冷却、ドライクリーニング溶剤、分散媒などといった用途にも使用されている。

 今回は洗浄用途の中からコーソルベントシステムの事例を紹介する。対象部品は自動車用メタル部品、車載部品用メタル部品である。ワークに付着している汚れは切削油、防錆剤であった。本事例では、現行メチレンクロライドで行っている洗浄からの代替であり、洗浄の要求事項はワークの脱脂ができて、後工程の被膜の密着強度が上がることであった。本洗浄では、HFE−7100によるコーソルベント洗浄を評価した。前段の洗浄剤としては日鉱石油化学社製のNS−200を使用した。

表1.洗浄方法

洗浄法

NS−200

HFE−7100

HFE−7100

@

1分、30℃、47KHz、揺動

1分、50℃、47KHz、揺動

ベーパー1分

A

2分、30℃、47KHz、揺動

2分、50℃、47KHz、揺動

ベーパー2分

B

現行メチクロ洗浄(U/S 2分→浸漬 2分→ 浸漬 2分→ベーパー 2分)

 <Novec>HFE−7100のコーソルベント洗浄の結果、両ワークとも現行のメチレンクロライドと同等の洗浄性を示し、かつメチレンクロライドで問題となる結露の問題もないため、洗浄性良好との判断であった。また、洗浄で得られた油分残渣の測定結果もメチレンクロライドと同等以上の結果を示した。本洗浄における<Novec>の利点は、メチレンクロライドの問題点のひとつである毒性を回避できること。現行の工程より工程数を短縮でき、かつ仕上がりの良い洗浄性が得られること。また洗浄のトータル時間を短縮できることにある。

3M社は地球を守る観点から、開放系用途である洗浄分野へは、PFCから<Novec>HFEへの転換を図ってきており、その代替が進んできた。今後も、<Novec>HFEの洗浄用途を展開することにより、幅広く多くの分野に貢献したいと考えている。


節水型枚葉式超音波洗浄装置

株式会社カイジョー
ウェットプロセス事業部 開発グループ
岡野 勝一

1.はじめに

 近年の地球環境保護意識の高まりにより、LCD製造工場では洗浄装置で使用される薬液をはじめ、純水や排気等の用力使用量や廃液・廃水処理負荷の低減を図ることが最大の課題となっている。

カイジョーはこの課題に取り組み、節水型枚葉式超音波洗浄装置AWCS(アドバンスド・ウェット・クリーニング・システム)を開発した。

AWCSの特長としては、
@純水使用量の大幅節減(当社従来比約1/3)
A省フットプリント(当社従来比約1/3)
B機能水の使用で薬液による洗浄をなくし、廃水処理負荷を大幅に低減。
である。

2.SWUSシャワー

SWUSは超音波振動子の前後で液制御を行っているため、従来型超音波シャワーの1/10程度の洗浄液で同等以上の洗浄効果を達成できている。

図.1のように洗浄対象物(ガラス基板)と超音波振動子間の数ミリの隙間に洗浄液を流し、液膜を形成する。そこにメガヘルツの超音波を印加して対象物表面の異物をはがし取り、同時に洗浄液は速やかに排出し、汚れの再付着を防ぐ構造になっている。

尚、SWUSシャワーの開発にあたっては東北大学 大見忠弘教授の御指導のもと、株式会社フロンテック(現アルプス電気株式会社)と共同開発を行った。

3.機能水の応用

これまでのLCD向けの洗浄分野においては、純水以外に薬液又は洗剤等を多用してきた。しかし、環境問題に対する配慮により今後は薬液の使用が大きく制限される可能性も出てきている。最近では薬液・洗剤に替わる洗浄液として機能水が注目を集めている。特に水素水と超音波の組み合わせによる洗浄方法で大幅に洗浄力を向上できる。図2の実験結果は、水素水を使用すれば約10%の洗浄効果の向上を示している。加えて薬液を使用しないため排水処理が不要であるという利点がある。

図2 水素水・メガソニック洗浄の効果
(8インチウェーハによるスピン洗浄例)

写真1 節水型枚葉式洗浄装置「AWCS」

 

4.節水型枚葉式洗浄装置「AWCS」

AWCSはSWUSシャワーと水素水を組み合わせて使用し、さらに前処理としてUV処理を使用することにより、装置の小型化、純水使用量・廃液・廃水処理負荷を抑えることを可能にした。

4.1 従来型洗浄装置との比較

表.1から装置寸法・純水使用量共に従来比約1/3を達成していることがわかる。装置の小型化によりクリーンルーム内レイアウトの自由度や、ライン構成も比較的容易になる。

(表.1 装置比較)

5.まとめ

1100×1300mm(5m/min搬送)の洗浄パフォーマンスについては現在フィールード評価中である。結果については近日中に報告できる予定であるが、有効な洗浄効果が得られている。

今後も地球環境を十分配慮した上で、高いパフォーマ ンスを実現できる装置を提供できるよう今後も取り組んでいきたい。

(これら2件は、「第7回洗浄技術フォーラム(平成14年9月26日開催)」より、講師のご好意で作成頂きました“要旨”です。)

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