新しい時代の化学物質管理としてのEVABAT

株式会社富士総合研究所

和田 宇生

環境中への化学物質の主要排出源の一つである産業洗浄工程を対象とし、化学物質管理としてのリスク削減策のあり方について、EVABAT(Economically Viable Application of Best Available Technology:経済的に実行可能な最良利用可能技術)という考え方に基づいて検討した。題材としては、脱脂洗浄等で広く使われている塩素系溶剤を取り上げた。

1. 排出抑制への取り組みにおける現状の問題点

  • 排出抑制対策の検討に共通ルールはなく、各事業者独自の基準で判断されている状況である。また要求品質(清浄度)基準の曖昧さが、化学物質の過剰使用に繋がっている可能性もある。
  • 排出抑制対策の情報が分散しているため、情報収集に労力がかかり、また対策技術の相互比較には困難が伴う。中小事業者だけでなく、大手企業でも対策選定に苦労している。
  • 洗浄性能だけでなく、製造部品の性能や信頼性のチェックに労力がかかる。
  • 上記の問題は中小事業者で一層顕著となる。PRTR集計結果から、特に中小事業者への対策が重要であると言える。

2. リスクの観点からの化学物質管理

近年、化学物質管理の考え方がハザード管理からリスク管理へと移行してきている。化学物質のリスクはハザード(毒性)と暴露量の掛け算で表現される。リスク管理の観点では、ハザードを有する物質を継続使用する場合は、排出量抑制によりリスク削減が可能となる。

3. EVABAT評価手法の確立と普及に向けて

(1) 共通尺度としてのEVABAT

上記諸問題の解決策としてEVABATという考え方の適用方法を検討した。リスク評価とコスト評価を通してリスク削減の最適対策を検討することとなる。共通尺度での評価であっても、ある特定の対策が常に最善となる訳ではなく、最適な対策は事業者それぞれの状況に応じて異なるはずである。

(2) 情報基盤整備によって期待される効果

EVABAT導出システムを開発し、インターネット上で利用可能とすることで、化学物質リスクの専門知識をもたない事業者でも適切な評価に基づいた意志決定が可能となる。結果として、対策選定の最適性と効率性が大幅に向上され、自主管理促進への大いなる寄与が期待される。またリアルタイムな最新対策情報の提供が可能となり、規模の異なる多種多様な事業者へのEVABATの普及が期待される。

本稿は、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構からの委託で実施された「エネルギー使用合理化に係る化学物質リスク削減のための最適適用可能技術(EVABAT)体系の確立に関する調査(平成14年度)」の成果をベースとするものである。本報告書はNEDO技術情報データベース( http://www.tech.nedo.go.jp )からダウンロードできる。なお当データベース利用には、まずユーザ登録が必要である。

(これは、「第19回JICC洗浄技術セミナー(平成15年11月21日開催)」より、講師のご好意で作成頂きました“要旨”です。)


 

産業洗浄における界面活性剤の新しい応用技術

(元)ミヨシ油脂株式会社

二宮 守男

 産業用の湿式洗浄では、水または溶剤が媒体として用いられる。この媒体は汚れを溶解するほか、界面活性剤の作用や機械的、物理的作用で離脱した汚れを液中に分散して被洗浄物から隔離する働きをする。超音波などで油性汚れを表面から離脱させ分散できたとしても、媒体が水だけであると分散を持続する力がないので、この汚れは再び付着する。界面活性剤を使用する水系の洗浄では、媒体の水は界面活性剤の洗浄作用を有効に洗浄液と汚れの界面に伝えること、離脱した汚れを安定に分散させるという二つの役割をしている。これまで洗浄剤に使用されてきた幾つかの界面活性剤がPRTR法に指定されたほか、強い洗浄力をもつ非イオン活性剤の原料であるアルキルフェノールが環境ホルモンの疑いが持たれているので、今後はこれらの界面活性剤の使用は制約を受けるだろう。そこで今回の洗浄技術セミナーでは、これからの産業洗浄における界面活性剤の応用技術と実用化が期待される最近の特許を紹介する。

洗浄に使用される界面活性剤は水または溶剤に溶解することが必要である。イオン性界面活性剤は一般に水に難溶性で、極く微量は溶解するが多くは気/液、固/液界面に吸着し、また溶液中でミセルを形成して溶存する。界面活性剤の水溶液による洗浄は、汚れ内部や汚れと被洗浄物の間に洗浄液の湿潤、浸透から始まるが、洗浄力は表面・界面張力の低下、乳化、分散、ミセル形成、可溶化力など諸性質の総合的な効果である。そして界面活性剤の基本的な性質の一つである湿潤、浸透力の強いアニオン活性剤や非イオン活性剤は精密部品の微細な隙間へ洗浄液を有効に浸透させるので、例えばジアルキルスルホコハク酸ナトリウムを他の界面活性剤と併用する特許も多い。

また互いに溶解しあわない水と油を、界面活性剤を用いて混合することは実用上極めて重要であり、その方法には可溶化と乳化があるが洗浄の分野でも貢献している。ミセルやマイクロエマルジョンへ不溶性汚れの可溶化と、汚れ成分に疎水性の油脂などが含まれている場合には、乳化作用が大きな役割をする。

一方非イオン活性剤も産業洗浄の分野で重要な働きをする。一つは非イオン活性剤の特性である曇点を有効に利用する方法で、曇点以上の温度で被洗浄物に非イオン活性剤を脱水和の状態で吸着させ、油性汚れを非イオン活性剤に溶解させる。次に温度を下げて油性汚れを可溶化または乳化状態で被洗浄物より脱着し分散させる。またリンス工程では、リンス水を曇点以上に上げることによって油水分離を促進させる方法もすでに実用化されている。もう一つは低気泡性非イオン活性剤の利用で、例えばポリオキシエチレンアルキルエーテル型非イオン活性剤にポリオキシプロピレン基を導入したものが使用されている。非水系洗浄剤における逆ミセルを利用した水溶性汚れの除去や界面活性剤の新たな応用として、アセチレングリコールやジメチルシロキサンの酸化エチレン付加体、アルキルポリグルコシドなどが産業用洗浄剤に期待される。

(これは、「第19回JICC洗浄技術セミナー(平成15年11月21日開催)」より、講師のご好意で作成頂きました“要旨”です。)
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