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水系洗浄剤の高機能化 ライオン株式会社 化学品研究所 篠原 明
塩素系溶剤に比較して環境安全性の高い水系洗浄剤は様々な産業洗浄分野で活用されている。水系洗浄剤の最大の特長は、界面活性剤・キレート剤等を配合することにより乳化・分散等複数の機能を付与できる為、油・パーティクル・イオン等様々な汚垢に対し優れた洗浄性を示すことである。 ここでは、水系洗浄剤の基本的洗浄機構、及びマイクロエマルションを応用した新たな洗浄機構について述べる。合わせて弊社の環境負荷低減に対する取り組み事例について紹介する。 1)水系洗浄剤の基本的洗浄機構 溶剤・準水系洗浄剤の基本的洗浄機構は、油を油で溶解することである。その溶解性の高さにより金属部品に付着した切削油、プレス油等の洗浄に多用されている。しかし最近は要求精度の高まりと共に加工方法が油を用いた切削加工・プレス加工から、研磨粒子を用いた研磨加工へと変化している。その結果洗浄対象が油ではなく、パーティクル・イオン等に変化し溶剤系洗浄剤では対応出来なくなりつつある。水系洗浄剤はその主成分である界面活性剤自身が分散性を示すだけでなく、ベースの水もイオン性物質に対し優れた除去性を示すため研磨後洗浄に適していることが知られている。更に、アルカリ剤・高分子分散剤を配合し粒子洗浄性を高めると共にキレート剤を配合することによりイオン除去性を高めることも可能になる。 産業用洗浄剤分野に於いて水系洗浄剤が多用されている要因の一つとして、その洗浄機構の多様性が挙げられる。 2)新たな水系洗浄剤の洗浄機構 前述の通り水系洗浄剤は多種の汚垢に対し優れた洗浄性を示すが、油の除去性能では溶剤に及ばないのが一般的であった。近年、マイクロエマルションを洗浄剤として応用する技術が発達し、水系洗浄剤の油分洗浄性が飛躍的に向上している。臭素系溶剤を用いて洗浄していた分野等では安全性の高いマイクロエマルション系洗浄剤への代替が進捗している。更に、マイクロエマルションの自己乳化性を活用し、隙間・閉じ穴に付着した洗浄困難な汚垢に対しても対応可能な洗浄剤が開発され、水系洗浄剤の更なる高機能化が進捗している。 3)水系洗浄剤の環境問題 水系洗浄剤を使用すると洗浄剤成分を含む多量のリンス排水が発生する。弊社では①洗浄プロセス装置のクローズド化②生分解性が高く、且つ環境安全性の高い原料の活用を進めており、より環境安全性の高い水系洗浄剤を提供すべく開発を進めている。 以上水系洗浄剤の現状について簡単に紹介したが、今後も私どもは更なる高機能化を進めると共に、環境安全性の高い洗浄剤を市場に提供して行く。 (これは、「第9回JICC洗浄技術フォーラム(平成16年9月30日開催)《より、講師のご好意で作成頂きました“要旨”です。) No.53 三井・デユポンフロロケミカル(株) テクニカルセンター 菊地秀明 1.はじめに バートレルâはCFC*113の代替品として1996年に上市された。以来、そのユ二一クな特性によりCFC*113のみならず、HCFC類や塩素系溶剤、アルコール類等の代替品として精密洗浄のみならず多くの分野において幅広く使用されている。今回このバートレルâの優れた特徴およぴ洗浄事例について紹介する。
2.バートレルâの主たる特徴 バートレルâXFはHFC系洗浄剤であり、環境特性、安全性、洗浄性能、経済性がバランス良く調和している。 バートレルâの主要物性を表1に示す。   表1.バートレルâXFの主要物性
注)1.500年ITH、IPCC2001レポート 2.デュポン社の暫定許容濃度 3.計算値 4.公表値より抜粋
3.バートレルâを用いた洗浄事例 3*1.微粒子除去 微粒子除去操作においては、液密度と粘度、体積抵抗が特に重要なファクターである。そして大きな液密度とより小さな動粘度を有するバートレルâは、より小さな微粒子をより大きな衝撃カをもって除去することが可能である。また体積抵抗値がより小さいため、微粒子除去操作においてしばしば生じる再付着の問題、また電子部品等の洗浄においては、静電気によるESD破壊の心配も殆ど無い。またエタノールとの共沸混合物である、パートレルâXEは体積抵抗値がXFより更に小さくより効果的である。 事例①携帯電話部品からの微粒子除去 洗浄部品;樹脂成型品 汚れ;微粒子(1μm以上) 洗浄工程;XE(超音波)→XE(蒸気) ポイント:部材が熱に弱いため、低温での洗浄/乾燥が必須。
3*2.水きり乾燥 バートレルâX*E10置換型水きり乾燥法は、バートレルâXFの強い上燃性がために、高濃度のアルコールを上燃性を維持しつつ含有している.そのため特に形状が複雑な部品においても乾燥能力が優れ、又短時間での乾燥が可能である.また乾燥性に関しアルコール濃度に数%分の余裕があるため、アルコール濃度の管理も緩やかな管理で余裕を持って行うことができる.また常用温度が低温なので、構成部材への影響も殆どなく、置換型乾燥なので消費電力も少ない. 事例②基板の水きり乾燥 洗浄部品;基板 汚れ;微粒子を水系洗浄剤で洗浄した後の水の乾燥 洗浄工程;(水系)→X*E10(沸騰/超昔波)→XE(冷浴浸漬)→XE(蒸気) ポイント;しみの無い高品質の仕上がり。 また水系での洗浄後に一旦IPAで水を置換しそのIPAをIフッ素系溶剤の蒸気で乾燥させる方法も広く行なわれている。パートレルâXFは、現行の装置にそのまま使用が可能である。また品質面においても従前のものと遜色ない仕上がりが得られる。このプロセスにおいて、混入したIPAを除去するため水洗浄が必須であるが、その際IPAと共に水に抽出されるフッ素系溶剤はより少ないことが望まれるが、パートレルâXFは水への抽出が少なくコスト的にも大いにメリットがある。 事例③半導体部品のIPA乾燥 洗浄部品;半導休部品 汚れ;IPA 洗浄工程;(IPA)→XF(蒸気) ポイント;IPAと混合しても上燃性を維持。 3*3.一般洗浄 脱脂或いはフラツクス洗浄のように強い溶解カを必要とする洗浄では、上揮発性有機溶剤で汚れを落とし、バートレルâで有機溶剤をすすぐ方式が用いられる。このプロセスにおいて、洗浄性及びすすぎ性も当然重要であるが、さらにフツ素系溶剤を如何に効率よく有機溶剤から分離するかといこともランニングコストからみて重要なポイントである。XFはフッ素系溶剤のなかにあって、有機溶剤からの分離性/分離効率が良く、経済性における寄与効果が高い。 事例④オ一ディオ機器部品の脱脂 洗浄部品;オーディオ機器用金属、樹脂部品 汚れ;鉱物油 従来の洗浄工程;(炭化水素)→PFC 代替洗浄工程;(炭化水素)→XF(沸騰)→XF(超昔波)→XF(蒸気) ポイント;環境問題、品質 事例⑤フラックス洗浄 洗浄部品;基板 汚れ;フラックス 従来の洗浄工程;(炭化水素)→PFC→アセトン 代替洗浄工程;(炭化水素)→XF(沸騰)→XF(超音波)→XF(蒸気) ポイント;環境問題、品質(静電気によるESD破壊の解消)
4.まとめ 以上洗浄事例を中心に述べてきたように、バートレルâ及びパートレルâ洗浄システムはその優れた安全性、環境特性、物性により、様々な二一ズに対応が可能である。
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(これは、「第9回JICC洗浄技術フォーラム(平成16年9月30日開催)《より、講師のご好意で作成頂きました“要旨”です。)