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産業洗浄におけるVOC対策:自主的取り組み 大和化学工業(株) 土井 潤一
VOC排出抑制にむけ、大気汚染防止法が改正され(平成16年5月26日公布)、関連政省令の公示によって、本格的にVOC規制(平成18年4月1日施行) が具体化する。また今回は、「法規制と自主的取り組みの双方の政策手段を適切に組み合わせる(ベストミックス)」新しい考え方が採用されており、産業界は法規制対応と自主的取り組みの推進を急いでいる。 産業洗浄における法規制 --規制対象施設-- 規制対象は、「一施設当たりのVOCの排出量が多く、大気環境への影響も大きい施設は、社会的責任も重いことから、法規制」を適用する視点で決定されている。(中環審意見具申) 産業洗浄における規制対象施設は、「洗浄施設において揮発性有機化合物が空気に接する面の面積が5u以上のもの」が規制対象となり、以下の遵守義務か課せられる。 --規制内容— 排出口濃度規制(排出基準は400ppmC) 対象施設の新設は60日以内、既設は30日以内に都道府県知事に届出義務 VOCの定義と現状 VOCとは「大気中に排出され、又は飛散した時に気体である有機化合物(浮遊粒子状物質及びオキシダントの生成の原因とならない物質として政令で定める物質を除く。)」となっている。 このVOCが全国で185万t(2000年推計)排出されており、工場などの固定発生源で150万t、自動車等の移動発生源35万tとされている。 この固定発生源150万tを2010年までの10年間で30%程度排出抑制することで、浮遊粒子状物質及びオキシダントの大気汚染が相当程度改善されることを目標としている。 @ 対象施設は届出日より60日以内の施設等設置の禁止、都道府県知事による60日以内の都道府県知事計画の変更・廃止の命令 A 対象施設設置者による濃度測定及びその結果の記録義務 B 対象施設設置者による排出基準の遵守義務と都道府県知事による改善、施設の使用一時停止命令 自主的取り組みの推進 自主的取り組みの進め方については、従来の有害大気汚染物質の自主管理のような統一的手法を取らず、情報公開とチェクアンドレビューを前提とした「事業者がそれぞれの事情に応じて取り組むという柔軟な方式でも排出抑制は進展する」と考え、「今後、事業所、企業、業界団体等の最もふさわしい主体ごとに、適切な方法を検討し、確立すること」(中環審意見具申)が求められている。 現在この進め方については、経済産業省・環境庁においも委員会等で議論が続いている。 産業洗浄の主要VOC発生源 産業洗浄におけるVOC排出量の約7割は、塩素系洗浄剤(塩化メチレン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン)である。 また、その主たる企業規模別発生源は中小企業領域であり、今後VOC排出抑制の取り組みはこの中小企業対策の視点が重要となる。 この点は、脱フロン・エタンの推進において、大手企業は水系、炭化水素系などの代替洗浄剤を使用するようになったのに対して、プレス加工、切削加工、メッキなどの金属加工業を中心とした中小・零細企業の多くは、移行コストが安く、洗浄性能も高い塩素系洗浄剤(塩化メチレン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン)へと移行した。これらの中小・零細企業では、環境対策への関心が低かった時代に開発された既設洗浄機を継続して使用し、十分な排出抑制対策が取られていない現場が多い現状もその要因とみられる。 VOC排出抑制と中小企業対策 中小企業におけるVOC排出対策 VOC排出量の経年変化はその低減傾向を示している。しかし、平成9年以来の「有害大気汚染物質自主管理計画」の成果をふまえ、産業洗浄工程から一層のVOC排出抑制を実現するには、中小・零細企業単独での自主的な取り組みに頼るだけでは極めて困難である。 これらの中小・零細企業で排出抑制対策が進まない理由としては、情報の欠如、資金面での脆弱性、専門知識の不足が挙げられる。またVOC排出抑制対策の選定ルールが未整備であることも要因である。 したがって、有害大気自主管理やPRTR制度、あるいはグリーン調達によって、VOC排出抑制に対する取組意欲はあっても、進展しにくい状況にある。 複数対策の組合せによって低コストで効果的な排出削減が実現可能 a 複数のVOC排出抑制技術の組合せが重要 表2に示すように、産業洗浄工程に対するVOC排出抑制対策技術は既に多数存在する。ただし、排出抑制効果の高い対策は、コストも高く、中小・零細企業での導入は困難である。逆に、中小・零細企業でも実施可能な低コストな対策(使用方法の見直し、運転・操作の改善、洗浄装置の改造など)は、単独ではVOC排出抑制効果が低い。 そこで、中小・零細企業でも実施可能な低コストの対策技術を複数組合せることで、VOC排出を効果的に抑制することが可能となる実例に注目する。 b 最適な組合せの難しさ 中小・零細企業がこの対策技術の最適な組合せを独力で実施するには、洗浄の現場が千差万別なため、単なるマニュアルでは対応不可能である。したがって、自社に最適に組合せを検討するには、専門知識やノウハウが必要とる。 c EVABATという考え方 ISO14001においては、技術上の選択肢を考慮する際に配慮する考え方として、経済的に実行可能な最良利用可能技術(EVABAT:Economically Viable Application of Best Available Technology)が提示されている。この考え方は、経済産業活動を行いながら現実的な化学物質のリスク削減対策を考える上で経済面が強調されているという点で、特に中小企業対策を考える際には重要である。しかし、ISO14001においてEVABATは考え方として提示されているだけで、具体的な導出手法や判断基準が示されている訳ではない。 排出抑制支援システムとしてのEVABAT構築 産洗協は、EVABATという考え方を具現化するため、事業者個別の状況に応じた最適なリスク削減対策の組合せを導出することによって、上記のような課題を総合的に解決する「産業洗浄におけるEVABATの確立」を急いでいる。 EVABATでは、中小・零細企業から排出されている塩素系洗浄剤由来のVOC排出量を抑制するために、選択肢が様々にある洗浄剤、洗浄装置、洗浄操作、周辺設備等の複雑な組合せの中から、現場作業の制約、要求清浄度等の個々の状況に対して、効果的で経済的に実行可能なVOC排出抑制を含むリスク削減対策を環境ソリューションとして提供するシステムをめざしている。 また、この支援システムを洗浄現場へと広く普及させるために、インターネット上で利用できるように整備し、中小・零細企業への利用環境を提供する。 同時に産洗協は、事業者の要請にもとづくアドバイザリー制度、認証登録制度も同時に追求している。
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(これは、「第24回JICC洗浄技術セミナー(平成17年6月24日開催)より、講師のご好意で作成頂きました“要旨”です。)