- 洗浄と静電気
(株)カイジョー 研究開発本部 藤江 明雄
- 1.はじめに
- 「洗浄と静電気」と言うと、炭化水素の着火、爆発を想起するほど周知され1)〜5),洗浄装置やジグ類の接地、洗浄物の事前除電が肝心な事も判っているので、ここでは半導体デバイスの洗浄に係わる静電気課題を中心に記述し参考に供する。詳細はセミナー資料と参考文献を参照願いたい。
- 2.半導体で静電気問題を重視する背景
- 半導体デバイスの微細化設計技術は半導体技術ロードマップ(1997、1999)に示されるように、日進月歩で進行中である。
- そして材料の物理特性限界にまで到達し、現先端デバイスのゲート酸化膜厚Tox=3〜4nm、その絶縁破壊電圧は4Vである。従って微細化設計の進行はデバイスの静電気放電(ESD=ElectroStatic Discharge)破壊耐性の低下を伴う。現にLSI、HDD用GMRセンサー、TFT液晶等のデバイス微細化による静電気課題は「歩留まり低下=ロスコスト」をもたらし、生産ラインの静電気対策の再見直し、改善中である。
- 3.基板洗浄の変遷
- 洗浄の最新技術動向は文献6を参照願う。
Siウエハのウエット洗浄はカーン博士による通称RCA洗浄(12工程)が長らく活用され、工程簡略化・低温処理化・薬液低濃度化への努力が為されてきた。
- 一方、LSIの微細化設計は高価なレチクル(フォトマスクと同義語)の増加を必要とし、64M-DRAMでは20〜25枚も使っている。 洗浄は前洗浄やレジスト剥離等{レチクル枚数x2}回以上必要となる。ロジックLSIの洗浄回数 > 100回に及ぶ。
- 近年、東北大学 大見教授の洗浄の常温処理化、低濃度薬液+メガソニック洗浄等での4工程洗浄の提唱に触発され、以後機能水によるさらなる洗浄工程の短縮、省薬液、省純水へのチャレンジが行われている。
- この間ウエハと汚染微粒子のZeta電位が同一極性ならば反発で再付着が少ない等の静電気の概念が洗浄の世界に持込まれた。
また洗浄に乾燥は必須条件であり、温純水引上げやスピンの乾燥が一般的であった。
- その後、基板の大型化にしたがいIPA蒸気乾燥が開発され、基板の静電気除去にも有効である事を大見教授らが実証した。
またIPAと水との置換乾燥法やウエハ引き上げ時のメニスカス部へのIPAガス吹きかけによるマランゴニ効果を利用した乾燥法など省エネルギー、省薬液、短時間処理を模索しながら変遷を続けている。
- またMPUのクロック周波数向上を目指したCMP(化学機械研磨)技術の採用とともにCMP後洗浄回数も増し両面ブラシ洗浄、新超音波洗浄法など技術変化が激しい。
- 4.超音波洗浄と静電気
- 超音波洗浄は1960年代から実用化が始まり、現在では主力洗浄技術に成長した。そして半導体産業に応用され始めて、MOS系ウエハ洗浄でゲート酸化膜破壊とボンドワイヤの共振疲労断線問題が起こった。
- 4-1) 40kHz超音波洗浄でのゲート破壊
- 概要はゲートリーク電流不良が急増し、危険率5%で超音波パワーのみが有意で、パワー印加の初期に破壊し、時間差なしの解析結果だった。その後も定在波ノード位置で線状にゲート膜破壊の報告もあった。
- これらは40kHz Cavitation 現象が低励振でも大きく起こり、気泡圧壊時の高速流がノード部でウエハ表面を叩く事、また超音波での水粒子励振距離が長く、その結果、配線上に静電気を蓄積し、ゲート酸化膜を破壊に至らしめると考えている。
- 4-2) 1〜3MHz超音波洗浄の効用
- 現在では振動子も改良され、超音波周波数も1〜3MHzまで高まった結果、気泡発生しきい値が高くなり、気泡小型化と水粒子とウエハ表面の擦り短ストローク化で、前記ゲート酸化膜破壊は無くなった。
- また高周波化はウエハ一様洗浄が可能となり、擦り回数も2桁近く上昇し、より微細な汚染粒子の除去も可能となった。さらに新たな化学効用の存在も明確となり、殆どのウエット洗浄システムに組み込まれ、メガソニック洗浄として活躍している。
- 4-3) 新たな機能水の効用と静電気
- 最近話題の洗浄における機能水は超純水中に溶解した微量なオゾンや水素のガスがその主役であるが、これらはイオン化されやすい一面があり、静電気の存在はその消長に影響するので関心を持つ必要がある。
- 5.洗浄における静電気発生7)
- 5-1) 静電気発生
- 洗浄に係わる静電気発生の機構には、摩擦帯電、剥離帯電、それらの複合型、流動帯電、噴出帯電、誘導帯電などがある。
- これら帯電は時としてLSIにESD損傷をもたらした。それに加え、微細化進行でウエハが100Vの帯電でも気中微粒子を吸着し欠陥を作り込む事が予測されだした。そこで製造装置のウエハ搬入、搬出口で静電気を制御して受渡をすることで、装置の静電気に対する互換性を持たせるガイドラインE-78をSEMI(米国半導体製造装置協会)が提案、日本でも翻訳紹介した。
- (原本はSEMIジャパンから入手可能)
- a-1) 固体−固体間の摩擦帯電
- 異なる2材料が擦れ合って電荷が分離し、その緩和が長いと帯電として観測される。洗浄装置に多用のテフロン材は周知の摩擦帯電列の最も負(−)に帯電し、アクリルは正(+)に帯電し易い材料である。
- 除電したテフロン製キャリヤの表面に指先を触れ離しで−1kV、さらに指先で擦ると簡単に−20kVに帯電し、減衰は遅い。
- a-2) 固体−液体間での帯電問題
- @乾燥、除電したテフロンキャリヤは遠心乾燥機に掛けても短時間では帯電しない。
- しかしその表面を水粒子が転がると簡単に−10kVにも帯電する。
- Aその帯電キャリヤからの電界は収納ウエハに電位上昇をもたらす。そのウエハ接地で、両端ウエハが高電位の分布に変化し、塵埃吸着をもたらす。
- Bウエハはリンス槽からの引上げ速度と共に帯電電位が上昇、5kVに及ぶ。
- CQDR(Quick Damp Rinse)はテフロン製槽内のエッチング液/洗浄水を槽底から急速排水するが、液体と槽壁との流動帯電で槽内電位は2〜5kVにもなる。その結果ウエハが誘導帯電を起こし、周囲塵埃を吸着しLSIの歩留まりを低下させる事例もある。
- Dテフロン製配管中を超純水/薬液が流下すると超純水も誘導帯電や流動帯電を起こし、配管上に帯電分布が生じる。
- a-3) 固体−気体間帯電
- 絶縁性配管中を気体が通過時、液体と同様に、管壁は気体との摩擦で帯電する。一方の帯電気体は流下し、管外に排出される。排出気体を絶縁された金属板に受け止めると管材依存の極性で電位上昇が観測される。
- 温風乾燥機で実装基板をエージング後取出し時に帯電を気付かずICをESD破壊した事例も多い。昔、実装基板のICが加熱したとき、スプレー缶口の細ビニールパイプから発熱箇所に冷却剤を吹き付け、帯電、接地でICを故障させた事例は多い。何れも気体の係わる静電気問題である。
- b)剥離帯電
- 半導体や液晶パネルの製造工程で多くの事例があるが、洗浄工程ではフープに巻かれた絶縁性テープが巻ほぐし時に電荷分離が起こり、容量の減少で電位が上昇しESDが発生する事故である。しかし洗浄では巻ほぐしが低速で大きな問題は起こらない。
- c)流動帯電 a-2a)、a-3)を参照
- d)噴出帯電
- 接地されたJet Spray洗浄用金属ノズルの微小孔先端から圧力を加えた水を噴出させると、水粒子がさらに微細化の過程で1kVにも帯電する。
この電荷量は僅かでも連続した流下状態で電荷蓄積機構が働けばSiウエハに作り込まれたLSIをESD破壊する。その破壊はLSIの表面処理法で異なるが、純水加圧力が高く、照射時間が長い、高ウエハ回転数でESD破壊の増加が判っている。
- 一方、液晶パネル工程では水をミスト状に噴出し除電に利用している。
- e)衝突帯電
- ウエハ・ダイシング時の冷却水が切断ブレード回転で加速、ウエハに高速衝突し、衝突帯電や超音波を発生させる。そしてCavitation気泡圧壊時の高速流の衝突での静電気発生により、LSIのゲート酸化膜破壊がある。そこで純水へ炭酸ガスドーピングで水の比抵抗を低下し膜破壊を防止している。この水はpH中和廃水が必要である。
- f)誘導帯電
- 帯電材料の上にウエハを近付けると、静電誘導でウエハに電位上昇が起こる。そのウエハを接地すると帯電材料と同極性の電荷がウエハ外に流出しESDが発生する。その後接地を外し、帯電材料を遠ざけると逆極性の電荷がウエハ一面に再分布する。これを再接地すると再びESDが起こる。
- 6. おわりに
- 日本ではウエット洗浄が主力である。米国ではドライ洗浄に注力してきたが、ウエット洗浄の追加で歩留まり向上が見られる事から、今後の微細化の進展でウエット洗浄はさらに重要になると考えている。その時に静電気課題はさらに重要になろう。
- 参考文献:
- 1) 児玉勉:静電気障災害 静電学会誌20, 5(1996) 266-26
- 2) 浅野和俊:障災害に関連する静電気現象 静電気学会誌、20, 5(1996) 270-274
- 3) 木下勝博、萩本安昭、渡辺憲道:静電気による火災・爆発事故 静電気学会誌、20, 5 (1996) 275-280
- 5) 児玉勉:最小着火エネルギーと静電気放電による着火危険性 静電気学会誌、23, 5 (1999) 227-233
- 6) 富岡秀起:洗浄の最新動向 Electronic Journal 1997.6.
- 7) 藤江明雄:半導体デバイスの静電気問題の概要 NIKKEI MICRODEVICES 1995年11月号 pp102-112
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