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環境保護情報

環境保護情報(2003年5/6月)

1.「2002年の代替フロン等3ガス排出抑制自主行動計画の進捗状況及び排出量について」

 地球温暖化防止のために京都議定書で規制対象となっている化学物質の中のHFC、PFC、SF6は総称して“代替フロン等3ガス”と呼ばれ、オゾン層破壊物質であるCFC(クロロフルオロカーボン)、HCFC(ハイドロクロロフルオロカーボン)の代替物質として、エアコン、冷蔵庫、断熱材、半導体製造、電力絶縁等の用途で使用されおり、産業界による自主行動計画を中心に、排出抑制対策が講じられている。

 去る6月11日に開催された産業構造審議会化学品・バイオ部会地球温暖化防止対策小委員会(第9回会合)ではその自主行動計画のフォローアップが行われた。
1.1 地球温暖化対策小委員会

 経済産業省は、地球温暖化対策の一環としてHFC等3ガスの利用分野における排出抑制を検討するために、産業構造審議会化学・バイオ部会に地球温暖化防止対策小委員会を設置し、その第1回会合を2001年3月26日に開催した。

 そこでの中心的な審議事項は、従来産業界で行われてきた「HFC等の排出量抑制に関する自主行動計画」についての検討であった。

 経団連は、産業・エネルギー転換部門の2010年におけるエネルギー起源CO2排出量を1990年レベル以下にするなど、温室効果ガス排出削減のための対策として、1997年に「環境自主行動計画」を策定した。

 政府は、1998年6月に「地球温暖化対策推進大綱」を策定、その中でこの自主行動計画がわが国の地球温暖化対策の重要な柱の一つであると位置づけた。

 経済産業省は、同大綱を受けて、このような経団連・環境自主行動計画などの産業界の自主行動計画について、その進捗状況の点検を行い、実効性を確保することになった。

 その活動について、1998年以降毎年、関係する審議会(産業構造審議会、総合資源エネルギー調査会、産業技術審議会、化学品審議会)において、また、1999年度以降毎年、地球温暖化問題への国内対策に関する関係審議会合同会議および地球温暖化対策推進本部において、産業界等の行動計画の事後点検が行われることとなった。

1.2 代替フロン等3ガス排出抑制自主行動計画

経済産業省は、1987年12月の京都議定書採択を踏まえて、1998年2月に、産業界が自らHFC等排出抑制のための具体的対策に係る行動計画を策定するにあたって参考とすべきガイドラインとして、「産業界によるHFC等の排出抑制に係る指針」を策定した。

 経済産業省は同指針をもって、関係事業者団体に自主行動計画の策定を要請した。これに対して産業界からは、10分野19事業者団体が数値目標を含む自主行動計画を1998年4月に策定した。同計画については、技術的、経済的に可能な最大限の取組の確保の観点から精査が行われ、「化学品審議会地球温暖化防止対策部会中間報告として取りまとめの上発表された(1998年5月)。

 この産業界の自主的取組は、「地球温暖化対策推進大綱」において、代替物質等の開発と並んでわが国に地球温暖化対策の重要な柱の一つとして位置づけられ、関係審議会等により、その進捗状況の点検が行われ、その実効性を確保することとされている。

 今回発表された「2002年の代替フロン等3ガス排出抑制自主行動計画の進捗状況及び排出量について」は、自主行動計画の5回目のフォローアップである。

1.3 「2002年の代替フロン等3ガス排出抑制自主行動計画の進捗状況及び排出量について」

(1)排出量の現状と評価

 2002年の代替フロン等3ガスの実排出量は、前年より5百万CO2トン減少して、28.3百万CO2トンとなった。これを基準年(95年)の49.7百万トンと比べると、21.4百万CO2トンの減少で、率では4割強という大幅な削減である(表1)。

これは、自主行動計画に基づく産業界の努力の成果であるが、特に、HCFC-22製造時の副生HFC-23の排出、電気絶縁機器からのSF6排出といった主要排出源において、自主行動計画に基づく漏洩対策が進んだためである。

ただし、これだけ大幅に減少したのは、冷媒や発泡分野において、オゾン層破壊物質(CFCやHCFC)からHFCへの転換がまだ行われていなかったり、転換は行われても使用と排出の間にタイムラグあるために、HFCの本格的な排出が未だ現実化していないという状況に恵まれたためでもある。

 冷媒分野ではHFCの排出増が顕在化しつつあり、また、発泡分野においても来年よりHCFCからHFCへの転換が本格化するため、排出増は不可避の情勢である。

 従って、気を緩めることなく、引き続き排出抑制対策を積極的に進めることが重要である。

(2)産業界の取組

 自主行動計画は、マグネシウム鋳造分野が新たに加わった結果、合計11分野22団体となった。各分野において目標達成に向けた取組が着実に進んでいるほか、既に目標を達成したり、より高い水準に目標を改定した団体もある等、全体として期待どおり順調に進捗している。引き続き、参画の拡大、透明性・信頼性の向上、目標達成の確実性の向上に向けた努力を期待したい。

 各分野における自主行動計画の実施状況は以下の通りである(図1、図2)。

①ガス製造

・排出原単位の改善に伴い、実排出量も削減した。

・副成物として排出されるHFC-23の排出原単位がさらに大きく低下したことは大変評価できる。目標達成に向け、引き続き回収等の対策を進めていくことが期待される。

・その他のHFCは、昨年同様、新規生産ラインが立ち上げられたため、排出原単位は増加した。HCFCからの転換に伴い、HFC生産量は増加しつつあるところ、引き続き原単位改善努力を期待したい。

・PFC及びSF6については、概ね排出原単位の削減目標を満たしており評価できる。

②発泡、断熱材

・HCFCが広く使われており、HFCの使用量はまだ少なく、排出量もわずかである。しかし、平成15年末の発泡用途HCFC-141bの廃

 

止等に伴い、HFCへの転換が今後急速に進むと見込まれ、積極的な対策が必要である。

・各業界においては、HCFCからHFCへの転換を準備する一方で、一部用途でHC断熱材の実用化が始まったことを高く評価したい。今後の工場発泡等技術的に可能な分野でHCの利用の拡大を期待する。

③エアゾール(ダストブロワー)

・エアゾール(ダストブロワー)では、充填時漏洩率が低下し、HFC-134aからHFC-152a(地球温暖化効果はHFC-134aの約10分の1)への転換が徐々に進むなど各種取組を実施することにより排出量が減少した点は評価できる。

・一方、抜本的な取組のためには、ユーザー事業者や行政の協力を得て不可欠用途を特定し、これ以外の使用抑制に向けた取組を進める必要がある。

・HFCを使用せざるを得ない場合でも、安全性に配慮しつつ、できる限りHFC-152aへ転換することが望ましい。

・定量噴霧剤(MDI)では、CFCからの転換により、HFCの使用・排出量は増えているが、HFCを使わない粉末吸入剤(DPI)が4割を占めるに至るなど、増加を最小限に抑える努力が成果を上げている。

・遊戯銃では、HFC-152aの混入という自主的取組について、行政とも連携し、関係事業者の理解を得るよう一層の努力を求めたい。

④カーエアコン

・冷媒使用量について、より厳しい新たな目標達成を設定したことは高く評価できる。

・一部の燃料電池車における二酸化炭素冷媒の実用化を歓迎。一般車への実用化に向けた研究開発の進展も期待したい。

⑤家庭用エアコン

・HFCへの転換の本格化に伴い、排出量が徐々に増加。今後益々増加すると予想される。

・生産時漏洩率の低減のほか、排出の最小化に向けた努力の継続を求めたい。

⑥業務用冷凍空調機器

・HFCへの転換の本格化に伴い、排出量が徐々に増加。今後益々増加すると予想される。

・生産時漏洩率の低減のほか、排出の最小化に向けた努力の継続を求めたい。

・フルオロカーボン以外の冷媒や、温暖化係数(GWP)の低いHFC冷媒等を利用した機器の開発、適用拡大に引き続き取り組むことを期待。

・自動販売機に関しては、HCへの転換について、早期実用化が期待される。

⑦家庭用冷蔵庫

・断熱材については、非フロン系発泡剤への転換が順調に進んでいる。新目標に沿って早期に100%非フロン系に転換することを期待する。

・冷媒についてもHC化したノンフロン冷蔵庫が市販されたことを高く評価したい。今後更なる普及・拡大が望まれる。

⑧電子部品洗浄等

・排出量は、基準年と較べると大幅に減少しているが、昨年に比べると微増しており、目標達成に向けた更なる努力が期待される。

⑨半導体・液晶

・半導体分野は生産量が増加したにもかかわらず、排出量を減少させたことを評価したい。

・しかし、10%削減の目標を大きく上回っているので、これまでの対策を引き続き進めるとともに、CVD洗浄新規代替ガス研究開発の成果の早期実用化にも期待したい。

・液晶分野においては、規格原単位である旧目標を概ね達成し、さらに世界液晶産業協力会議(WLICC)において共通目標を設定し、これに伴い新目標を立てたことは非常に評価できる。

⑩電気絶縁機器

・SF6の排出量は引き続き減少しており、製造メーカー及び電力業界による対策を高く評価したい。今後とも、自主行動計画の着実な実施を期待する。

⑪マグネシウム鋳造

・初めて自主行動計画を策定したことを高く評価したい。目標の具体化に向け検討が進むことを期待したい。

(3)消費者の取組

 冷媒としてHFCを充てんした製品を廃棄する際には、家電リサイクル法やフロン回収破壊法に従い、適切に廃棄することが必要である。

 また、可能な場合には、HFC以外を使用した製品や、HFCを使用していても地球温暖化への影響の少ない製品を選択することが望ましい。

(4)国の取組

 新大綱に基づき、以下の事項を引き続き実施する必要がある。

①産業界の計画的な取組の促進

・産業構造審議会によるフォローアップを 引き続き行うことが重要である。

・エアゾール分野におけるダストブロワーの使用実態、電気絶縁機器分野の電力業界以外のSF6使用実態、代替フロン等3ガス関係技術動向・海外動向等について、調査を実施する。今後これらの調査結果を基に、自主行動計画の充実・強化を図ることが必要である。

・平成14年度より、民間事業者による排出削減事業への補助制度を創設した(「地球温暖化防止支援事業費補助金事業」)。

・今後とも、産業界における取組支援を充実・強化する必要がある。

②代替物質等の開発等

・平成14年度より、省エネルギーフロン代替物質合成技術開発を開始した。

・平成14年度で終了した半導体CVD洗浄プロジェクトにおいては、有力な新規代替物質の候補が開発され、その早期実用化が期待される。同じく14年度で終了した高性能断熱建材技術開発の成果により、炭化水素フェノール断熱材等が実用化した。

・エッチング・新プロセスプロジェクトは平成15年度が最終年度であり、その成果に期待する。

・平成14年度より、提案公募型の先導研究を創設した。(「CO2削減等地球環境産業技術研究開発事業費補助事業のうち地球環境産業技術に係る先導研究」)

③代替物質を使用した製品

・消費者を対象とした普及啓発パンフレットの作成・配布などを実施。引き続き、啓発活動を実施することが必要である。

・グリーン購入法を活用する等、代替物質を使用するなど温暖化効果の小さい製品の普及を促す努力が必要である。

④法律に基づく冷媒として機器に充填されたHFC等の回収等

・フロン回収破壊法により、平成14年4月から業務用冷凍空調機器、10月からカーエアコンのフロン類回収を義務化した。フロン回収破壊法及び家電リサイクル法による冷媒HFCの回収を徹底するため、国民各層の理解と協力を得るための普及啓発が必要である。

・断熱材フロンへの対応策についても、引き続き調査を進めることが必要である。

⑤その他

・条約事務局に対する排出量報告を遺漏なく実施する必要があることから、引き続き関係業界等の協力を得て、排出量関係データの調査を進め、更にIPCCガイドライン及びグッドプラクティスに沿った排出量推計に努める必要がある。

2.京都議定書の批准動向

2003年5月19日現在における京都議定書の批准動向について、経済産業省から以下のような報告があった。

(1)締約国数

 京都議定書の発効要件は、55ヵ国以上が批准すること、批准した条約附属書Ⅰ国の1990年における二酸化炭素の排出量の合計が、条約附属書Ⅰ国全体の1990年における二酸化炭素の総排出量の55%以上を占めることとされている。

 5月19日現在の京都議定書締約国は、109ヵ国等(ECを含む)。批准した附属書Ⅰ国の1990年における排出量のシェアは、附属書Ⅰ国全体の43.9%であり、ロシア(17.4%)が批准すると、京都議定書の発効要件を満たし、その90日後に議定書は発効することになる。

(2)日本

 2002年6月4日に受託書の寄託(批准)を行った。

(3)EU

 2002年5月31日に、EU加盟15国および欧州共同体は、マタス西環境大臣、ヴァルストローム欧州委員会委員等により国連事務局に受託書のの寄託をを行った。

(4)カナダ

 2002年12月に、クレティエン首相は京都議定書の締結を決定し、同月17日に国連事務局に批准書を寄託。それに先立ち、同年11月には、京都議定書国内履行のための「カナダ気候変動実施計画」を策定した。

(5)ロシア

 現在、関係省庁(経済貿易発展省、水理気象環境モニタリング庁、外務省、エネルギー省、天然資源省)が、京都議定書批准を判断するために必要な情報収集、資料作成等を行っている。

(6)米国

 京都議定書は、米国経済に多大な悪影響を及ぼすものとして、引き続き不支持の立場を表明している。GDP当たりの温室効果ガス排出量を2012年までに18%削減することを目標としている。その目標を達成するための手法の一つとして、自動車、鉄鋼等の主要業界の自主的取組を通じて温室効果ガスの排出を抑制する「Climate Vision Initiative」を本年2月に発表した。

 ブッシュ大統領は、地球温暖化問題への解決策として、技術開発を重視している。本年1月の一般教書演説では、燃料電池自動車の重要性等に言及し、石炭を利用しながらも、二酸化炭素等を殆ど排出しないクリーンな火力発電所の開発のために、今後10年間で10億ドルを投資する「Future Gen 計画」を、3月に発表した。

(7)オーストラリア

 現政権は、米国および途上国の参加なしには京都議定書を締結しないとの立場で、昨年の総選挙に勝利した。ハワード首相は、議会において、米国および途上国の参加していないこと、国益に反することを理由に、京都議定書は締結しない旨発言した。
<参考資料>
・経済産業省:「京都議定書の批准動向について」(産業構造審議会化学・バイオ部会第9回地球温暖化防止対策小委員会・配布資料)(2003.6.11)


環境保護情報(2003年4月)

1. 平成13年度PRTRデータの概要

 2001年度のPRTRデータの集計結果が、去る3月20日に、経済産業省および環境省から同時に公表された。この公表は、1999年7月に交付された「特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律」に基づくもので、第1回として、届出を2002年4月1日〜6月30日に受け付け、届出対象外の排出量については国が推計して、全体のデータを併せて集計した結果がまとまったものである。

 この全データは、同法に基づく公開制度で、一般に広く開示されている。公表資料は、参考文献に記載する印刷物とホームページで見ることができ、また、開示請求により、全国データを光ディスクで購入することができる。その中には全国・全事業所の個別データが収録されている。

 以下にその集計結果のポイントを両省の報告書およびホームページに従って紹介する1-3)

1.1 概要

 今回届出のあった事業所は全国で34,830であり、事業所から届出のあった当該事業所からの排出量については、全国・全事業所・全物質の合計で約31万トン、移動量については約22万トンであった。

 また、国が推計を行った届出対象外の排出量(対象業種からの届出対象外の排出量、非対象業種からの排出量、家庭からの排出量、自動車などの移動体からの排出量)については、全国の合計で約58万トンであった。

1.2 排出量・移動量の届出について

(1) 届出の限界

 対象化学物質の排出が想定される事業者が届出の対象とされているが、届け出られた排出量・移動量は、全ての事業者からの排出量・移動量を網羅しているわけではない。

(2) 算出方法の精度

 事業者が届け出た排出量・移動量は、実測値に基づき算出する方法、物質収支により算出する方法、排出係数を用いて算出する方法など、化学物質排出把握管理促進法施行規則で認められた方法のうち、事業者が適当と判断した方法により把握されたものである。必ずしも実測値に基づくものではないため、その精度には一定の限界がある。

1.3 届出外排出量の推計

(1) 推計の作業

 経済産業大臣及び環境大臣は、関係行政機関の協力を得て、対象事業者から届け出られた第一種指定化学物質の排出量以外の排出量について推定することとされており、以下の事項ごとに算出することとなった(図1)。


<図1>集計の対象となる排出量の構成

① 対象業種に属する事業を営む事業者からの排出量であるが、従業員数、取扱量その他の要件を満たさないため届出対象とならないもの。

② 対象業種以外の業種に属する事業のみを営む事業者からの排出量。

③ 家庭からの排出量。

④ 移動体(自動車、二輪車等)からの排出量。

 この推定作業は、中央環境審議会環境保健部会および産業構造審議会化学・バイオ部会リスク管理小委員会の合同部会の審議を経て、また、国民からの意見募集の結果を参考にしつつ行われた。

(2) 基本的な考え方

 上記審議会の会合では、届出外排出量の算出について、“想定される主要な排出源からの排出量について、信頼できる情報を用いて可能な限り推計を行う”という基本的な考え方が示された。

(3) 届出外排出量の推計値の限界

① 届出外排出量については、想定される主要な排出源を対象に国が推計しているが、現時点で利用可能な信頼できる知見が存在するもののみが対象となっており、全ての排出源を網羅したものとはなっていない

② 届出外排出量の推計値については、現時点で利用可能な信頼できる知見に基づき推計を行っているが、その精度には一定の限界がある。また、排出源の種類により精度が異なることにも留意が必要である。

(4) 届出排出量・移動量と届出外排出量の比較の限界

 同一化学物質に係る届出排出量・移動量と届出外排出量の推計値とを比較する場合には、数値の精度に一定の限界があること、数値の精度は排出源により様々であること、届出排出量・移動量と届出外排出量の推計値を合わせても全ての排出源を網羅したものではないことに留意が必要である。

(5) 公表データによるリスク評価の限界

 PRTRで公表されるデータはあくまで排出量又は移動量の集計値であり、環境中で人や動植物が実際にさらされる化学物質の量(暴露量)ではない。また、化学物質が人の健康や動植物に影響を及ぼすおそれ(リスク)の大小を直接表すものでもない。化学物質のリスクを評価するには、有害性の評価とともに暴露評価を実施することが必要である。PRTRで公表される排出量・移動量の集計値のみで人の健康や動植物への影響を論じることはできないが、少なくとも、排出量の多い物質や地域の特定等、問題点を把握することが可能であり、リスク評価、あるいはそのための暴露評価の出発点となり得るものでる。

(6) その他

 今回公表するデータは、平成15 年2 月末日時点で都道府県及び関係省庁による確認を経て、経済産業省・環境省が把握していたものである。その後の事業者からの修正・追加等により、個別事業所データについて変更がある場合には、後日、ファイル記録事項(電子ファイル化され、開示対象となる個別事業所データ)を修正する予定。

1.4 集計結果の詳細

(1) 排出量・移動量の届出状況

全国34,840の事業所の届出に関する内訳は、業種別、都道府県別に紹介されており、その内訳は下記のごとくで、業種別は表1のごとくである。(表1 参照)

<表1>業種別届出状況
 

・総排出量:314千トン

 大気への排出:281千トン(総排出・移動

        量比52%)

 公共用水域への排出:13千トン(同2%)

 土壌への排出:0.3千トン(同0.1%)

 埋立処分:20千トン(同4%)

・総移動量:223千トン

 事業所の外への移動:219千トン(同41%)

 下水道への移動: 4千トン(同1%)

(図2 参照)


<図2>全物質合計排出・移動 

(2) 全国、全事業所の届出排出量の多い物質

 届出排出量の多い上位10物質の合計は260千トンで、届出排出量の合計314千トンの83%に当たる。

上位5物質は、下記の通り(図3)。

<図3>届出排出量上位10物質とその量
 

・合成原料や溶剤などに用いられる

 ①トルエン[132千トン]

 ②キシレン[52千トン]

・金属洗浄などに用いられる

 ③塩化メチレン[27千トン]・バッテリー・

  光学ガラス・顔料に用いられる

 ④鉛及びその化合物[9千トン]

・合成原料や溶剤などに用いられる

 ⑤エチルベンゼン[9千トン]

(3) 業種別の届出排出量

 事業者から届出のあった対象45業種(製造業23業種、非製造業22業種)の届出排出量は314千トンである。

また、届出排出量の多い上位10業種の合計は252千トンで、届出排出量の合計の80%に当たる(図4)。

<図4>届出排出量・移動量上位10業種とその量
 

上位10業種は、以下の通り。

① 輸送用機械器具製造業[55千トン]

② 化学工業[42千トン]

③ プラスチック製品製造業[37千トン]

④ 出版・印刷・同関連産業[25千トン]

⑤ パルプ・紙・紙加工品製造業[24千トン]

⑥ 金属製品製造業[19千トン]

⑦ 非鉄金属製造業[15千トン]

⑧ ゴム製品製造業[12千トン]

⑨ 窯業・土石製品製造業[11千トン]

⑩ 電気機械器具製造業[11千トン]

 

 

1.5 届出外排出量の推計値

 経済産業省及び環境省が推計を行った平成13年度の全国、全物質の届出外排出量の推計値の合計は、585千トンで、その内訳は以下の通り(図5)。


<図5>届出外排出量 

・対象業種からの届出外排出量の推計値:

 322千トン(55%)*

・非対象業種からの排出量の推計値:105千トン(18%)

・移動体からの排出量の推計値:88千トン(15%)

・家庭からの排出量の推計値:69千トン(12%)

*:対象業種に属する事業を営む事業者からの排出量であるが、従業員数、取扱量その他の要件を満たさないため届出対象とならないもの。

1.6 届出排出量と届出外排出量の推計値の合計

(1) 全国の届出排出量と届出外排出量の推計値の合計

 全国の届出排出量(314千トン)と届出外排出量(585千トン)の合計は、898千トンで、都道府県別の状況は図6の通りである。


<図6>都道府県別の届出排出量・届出外排出量 

 

 

(2) 届出排出量と届出外排出量の推計値の合計の多い物質

 届出排出量と届出外排出量の推計値の合計の多い上位5物質は、以下の通り(図7)。


<図7>届出排出量・届出外排出量 上位10物質とその量 

・溶剤・合成原料に用いられる他、自動車などの排出ガス、接着剤・塗料等に含まれる

 ① トルエン[221千トン]

 ② キシレン[111千トン]

・金属洗浄などに用いられる

 ③ 塩化メチレン[84千トン]

・溶剤や合成原料などに用いられる

 ④ トリクロロエチレン[59千トン]

・合成原料・溶剤・不凍液などに用いられる

 ⑤ テトラクロロエチレン[38千トン]

1.7 今後の方向

環境省は、今回のPRTRデータに基づいて、有害性データをつき合わせ、有害化学物質の対策のための優先順位を格付けすることを検討中である。このランキングシステムは、専門家による検討会で5月頃から作業を開始し、規制の可否も含めて今後の対策の優先度を決定するとのことである。

<参考資料>

1) 経済産業省製造産業局化学物質管理課・環境省総合環境政策局環境保健部環境安全課「平成13年度PRTRデータの概要 - 化学物質の排出量・移動量の集計結果 -」(2003.3)

2) 経済産業省製造産業局化学物質管理課・環境省総合環境政策局環境保健部環境安全課「平成13年度PRTR届出外排出量の推計方法等の概要」(2003.3)

3) 公表資料は、以下のホームページに掲載されている

経済産業省

http://www.meti.go.jp/policy/chemical_management/law/index.html

環境省

http://www.prtr-info.jp/index.html

2 洗浄分野におけるEVABATの検討

 EVABAT(経済的に実行可能な最良利用技術、Economically Vaiable Application of Best Available Technology)については、化学物質のリスク削減対策の一環として、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)が中心となって検討が続けられている。平成14年度には、産業洗浄分野における塩化メチレン適用現場を対象として調査が行われ、当協議会も「EVABAT対応小委員会」を組織して、同調査に協力した。

 その成果は㈱富士総合研究所によって「エネルギー使用合理化に係る化学物質リスク削減のための最適適用可能技術(EVABAT)体系の確立に関する調査報告書」としてまとめられた。同報告書は、近日中にNEDOより発表される予定である。

 NEDOは、この調査を基にして、その利用手法の体系化を図る意向である。

<参考資料>

・ 化学工業日報:「日本版EVABAT、塩化メチレン削減技術体系化、NEDO」(2003.4.15)


環境保護情報(2003年3月)

1.1 産業と環境小委員会

 この議論は、産業構造審議会の環境部会に設置された産業と環境小委員会で進行中である。

 同小委員会は、2002年10月31日に設立されたが、その設立の趣旨は以下のように説明されている。

“平成14年6月に、産構審環境部会廃棄物・リサイクル小委員会循環ビジネスWGにおいて、「循環ビジネスの自立的発展を目指して」が取りまとめられ、企業の自主的な取り組みによる環境経営の重要性や新たなビジネスモデルの創造の必要性等が提言された。

 資源廃棄物問題、地球温暖化等の環境制約の中で、如何に環境と経済を両立させ、持続可能な経済社会を構築するかが喫緊の課題となっている中、本取りまとめの環境経営を中心とする主要テーマについて、更に発展的に検討を行うことが必要となっている。

 このような背景のもと、環境経営の促進のあり方、地域を含めた環境ビジネスの振興、企業と市民等との連携による環境改善方策のあり方などわが国における環境産業の振興策や環境と経済の両立のための諸施策について幅広い審議を行うことが必要であるために、環境部会の下に、新たに「産業と環境小委員会」を設置することとする。”

 開催し、第5回会合(2003年2月27日)で、「(中間とりまとめ)環境と両立した企業経営と環境ビジネスのあり方」を採択した。

 以下に、その討議の経緯と今後の予定を紹介する

1.2 「中間とりまとめ(案)」

 以下に、同小委員会が作成した「中間とりまとめ(案)」の内容から、トピクスを選んで紹介するが、はじめに、その構成を理解するために、目次を掲げる。

序章 検討の背景

第1章 産業活動を巡る環境問題の変遷

 1.産業を取り巻く環境問題の変遷

 2.環境政策の変遷

 3.企業の環境経営の変遷

 4.環境省ビジネス分野の市場拡大

 5.産業構造審議会環境部会におけるこれま

  での検討状況

第2章 環境と経済の両立に向けた論点

 1.市場と環境を巡る論点

 2.政府による環境法制や経済的手法を巡る

  論点

 3.国内外の市場における環境規制・基準の

  整合性の確保

 4.環境技術体系を巡る論点

第3章 環境と両立した企業経営を巡る現状と

    課題

 1.環境に配慮した企業活動の進展=生産プ

  ロセスから製品・経営管理へ=

 2.ステークホルダーに対する情報公開・環

  境コミュニケーションの進展

 3.ステークホルダーから企業の環境配慮に

  対する要求の進展

 4.企業の自主的な環境経営進展上の課題

第4章 環境ビジネスを巡る現状と課題

 1.多様な環境ビジネスの進展

 2.環境ビジネス拡大に向けた課題

 3.環境ビジネス拡大のための諸課題

第5章 市民・企業・行政共同による環境保全

    活動の現状と課題

 1.多様なセクター間の連携事業の進展

 2.連携事業拡大に向けた課題

第6章 環境と経済の両立に向けた提言

 1.企業に対する期待=企業経営のグリーン

  化=

 2.市場のステークホルダーに対する期待

  =市場のグリーン化=

 3.国・地方自治体に対する期待=政策のグ

  リーン化=

1.3 “序章 検討の背景”

 序章では、本問題の検討の背景を以下のようにまとめている。

(1) 地球温暖化、資源・廃棄物問題等の環境・資源誓約が益々高まる中で、いかに環境と経済を両立させ、持続可能な経済社会を構築するか喫緊の課題。その中で、産業活動に起因する環境負荷は大きく、個々の企業経営においても、これら環境・資源制約への対応が求められている。

(2) わが国企業における環境経営の状況をみると、ISO14001認証取得事業所の増加、環境報告書作成企業の拡大、自主的な環境目標の設定、環境パフォーマンス等の情報公開、環境に配慮した製品・サービスの提供など民間企業が独自に環境保全取組を実施する例が多くなってきている。

(3) 民間企業による自主的な環境経営の進展は、1960〜70年代の「公害国会」により成立した公害対策規制法を踏まえた「受け身」の企業活動による環境対応とは、根本的に趣を異にしている。すなわち、環境への取組を、企業競争力、ビジネス開拓の重要な要素と捉え、企業経営上不可欠である収益性も加味した「持続可能な経営」、「環境と両立した経営」を実践する企業も多くなってきている。

(4) このような民間企業による持続可能な「環境経営」をわが国の経済社会システムに定着させていくことが、地球温暖化対策、廃棄物・リサイクル対策、化学物質管理対策等のわが国が直面する環境問題を解決する上で重要な課題といえる。

(5) 今般、政府でとりまとめた「産業発掘戦略」においても、「環境・エネルギー」が重点分野として位置づけられ、“メイド・イン・ジャパン」を環境配慮型製品・サービスの代名詞(環境ブランド)として国際的に定着させ、競争力を強化すること”が提言された。

(6) しかし、環境経営・環境ビジネスへの取組が、市場の中で自律的に拡大、定着していくためには、民間企業による独創的なビジネス・モデルが成立し得る市場環境整備が不可欠であり、それを取り巻く市民、消費者、行政との連携も極めて重要である。

(7) そのため、本「産業と環境小委員会」では、現在のわが国企業による環境に配慮した経営の実態や独創的なビジネス・モデルの状況、さらには消費者、市民活動、自治体における環境保全活動の状況をレビューしつつ、「環境と経済の両立」という地球規模の課題に対して、わが国経産社会の進むべき方向性について、検討を行った。

 

1.4 環境と経済の両立に向けた提言

第6章では、環境と経済の両立に向けた提言として、企業、消費者・市民、国・地方自治体それぞれに対する期待を以下のようにまとめている。

(1) 企業に対する期待

 =企業経営のグリーン化=

 経済活動において、企業活動の占める位置は極めて大きい。そのため、あらゆる企業活動において、環境配慮をいかに経済性ある形でビルトインするかが大きな課題である。最近の多くの企業が自主的に企業経営に「環境配慮」を盛り込み、企業の経営管理の強化、経営効率の向上、環境に配慮した製品・サービスの生産・供給を積極的に実践している。このような、わが国企業の動きは、企業経営と環境対応を両立させた動きと高く評価でき、環境制約が世界的に高まる方向に中で、将来的には競争力ある経営戦略として更なる進展が期待される(図1)。

(2) 市場のステークホルダーに対する期待

=市場のグリーン化

 経済活動の中で、企業のみならず、株主、投資家、取引先、消費者、金融機関等の企業以外のステークホルダーの行動も市場に大きな影響を及ぼす。企業にとってもこれらステークホルダーの理解と評価を得られなければ、持続可能な経営活動として定着していくことは難しい。一方で、外部のステークホルダーの行動が、企業活動を大きく変革させていくという側面も大きい。

 欧米におけるNPO等の市民活動団体による行動やSRI等の投資活動、消費者の行動等は、企業活動に多大な影響を与えてきている。 

 わが国においても、環境関係のNPO活動の進展、エコファンド等の投資行動での環境対応の進展、消費活動におけるグリーン購入等の拡大等、企業活動を取り巻くステークホルダーによる環境対応の取組が拡大しており、今後、市場を構成するあらゆる経済主体による環境保全活動が展開されることを期待する。

(3) 国・地方自治体に対する期待=政策のグリーン化=

環境と経済の両立した経済社会システムを構築していく上で、環境政策、経済・産業政策、教育政策を担う行政による制度設計の見直しが不可欠である。

 地方自治体においては、従来、環境規制行政の実施主体としての役割が環境分野では大きなウェイトを占めていたが、環境対応が地域の活性化やまちづくりに貢献、すなわち、具体的な自然保護等の環境保全の効果に加え、経済的効果を期待する環境政策を推進する自治体も多くなってきている。このように、地方自治体において、環境と経済の両立を目指す取組の一層の進展を期待する。

 国レベルの行政においても、企業の経済活動の規制による環境保全政策等のみならず、企業の自主的な環境保全活動を促進させるような、企業の経済活動を通じた経済活動を通じた環境政策の企画・立案も重要である。また、企業活動が海外市場へとグローバル化している中で、海外市場での環境規制、国内環境規制との関係も企業の経営戦略に大きな影響を与えていることから、国際市場との関係を充分に考慮した国内環境政策の企画が、環境と経済の両立を図る上で重要である。

1.5 今後の予定

経済産業省では、本小委員会における審議に会わせて、一般からの意見募集を“私たちと環境と産業の問題について考えてみませんか”と副題を付けて、ホームページ上で昨年10月28日から本年2月26日まで行った。

 また、「中間とりまとめ」については、パブリックコメントの募集を2月下旬から3月下旬まで行い、最終報告書がまとめられる予定である。

<参考資料>

1)経済産業省の審議会に関するホームページ

 http://www.meti.go.jp/committee/main.html

2)経済産業省産業技術情報局環境政策課

 「(中間とりまとめ)環境と両立した企業経営と

環境ビジネスのあり方」(2003.2.27)

2. 産業構造審議会第1回化学・バイオ部会

 経済産業大臣の諮問機関である産業構造審議会の第1回化学・バイオ部会が、2月19日に開催された。同会合で紹介された同部会の組織と化学物質管理政策の原状についての説明の要旨を以下に紹介する(図2)。

2.1 化学物質管理対策について

 化学物質はその優れた機能性により工業原料から最終消費財に至るまで産業活動や国民生活に幅広く利用される一方、化学物質の中には、その固有の性状として何らかの有害性を示す化学物質も少なくなく、その取扱いや管理の方法によっては人の健康や環境への影響をもたらす可能性がある。

 これらの中には、PCB等のように有害性が明確になり厳しく規制されているものや、内分泌かく乱物質のように人の健康や環境への影響が懸念されているものの具体的な影響が十分明らかになっていないもの等さまざまなものがある。現在数万種にのぼるとされる化学物質の多くについて、その人の健康や環境へのリスクに関する知見は十分に得られていないのが現状である。

 このため、国際的にもOECDや国連等の場を通じて政策協調や協力が進められており、近年においては残留性有機汚染物質(POPs:Persistent Organic Pollutants)に関するストックホルム条約等が採択されるなど化学物質規制への取り組みが強化される方向にある。

 こうした中で、我が国の化学物質管理政策においては、化学物質管理を巡る国際的な動向も踏まえつつ、化学物質の特性を把握し、そのライフスタイルにわたって人の健康や環境へのリスクを評価し、そのリスクに応じて適切に化学物質の管理(事業者の自主的取組や関係法令の適切な施行等)を行うことが求められている。

化学物質審査規制法の適正な運用

化学物質排出把握管理促進法の施行

化学物質に関する科学的知見の充実

国際調和と協調の促進

2.2 フロン等に係るオゾン層保護・地球温暖化防止対策の推進

 オゾン層保護のため、モントリオール議定書(1989年発効)及びその国内担保法たるオゾン層保護法(1989年施行)に基づき、CFC、HCFC等のオゾン層破壊物質の生産量、消費(生産+輸入-輸出)量の段階的削減・全廃を進めている。

 また、製品中に含まれるフロンの大気中への排出抑制のため、「家電リサイクル法」(2001年施行)及びフロン回収破壊法(2002年施行)に基づき、冷媒用フロン(CFC、HCFC、HFC)の回収・破壊を義務づけている。

 さらに、1997年に採択された京都議定書において、CFC等の代替物質であるHFC、PFC及びSF6(以下「代替フロン等3ガス」という)が、温室効果ガスとして排出抑制対象となったため、地球温暖化対策推進大綱に基づいて産業界の自主的取組等の排出抑制対策を進めている。

(1) 特定フロン等の削減

(2) フロンの回収・破壊

(3) 代替フロン等3ガスに係る地球温暖化防止対策

2.3 化学兵器・麻薬原料等規制対策について(略)

<参考資料>

経済産業省:「産業構造審議会第1回化学・バイオ部会」配布資料(2003.2.19)


<図1>企業経営のグリーン化に対する期待

<図2>産業構造審議会 化学・バイオ部会組織構成図


環境保護情報(2003年2月)

1. 日本産業洗浄協議会平成15年度賀詞交歓会における経済産業省掛江オゾン層保護等推進室長のご挨拶

 さる1月17日に日本産業洗浄協議会平成15年度賀詞交歓会が、メルパルク東京(東京都港区芝公園)で開催され、約百数十名が参加した。

 来賓を代表して経済産業省の掛江オゾン層保護等推進室長が以下の如くご挨拶されました。

「新年あけましておめでとうございます。皆様には、日頃より、地球環境の保護や化学物質の安全管理について、特段のご理解とご協力を賜っておりますことに対し、この場をお借りして深く御礼申し上げます。

 昨年を振り返ってみますと、オゾン層保護、地球温暖化、そして化学物質管理に関し、それぞれ大きな進展がありました。

 まず、オゾン層保護に関しては、フロン回収破壊法が施行され、4月から業務用冷凍空調機器、10月よりカーエアコンからのフロン類の回収が義務化されました。これに伴い、全国で60事業者がフロン破壊の許可を受け、また、業務用冷凍空調機器からのフロン回収の業者は2万強、カーエアコンの引取事業所は5万強、カーエアコンからのフロン回収事業所は2万強が、それぞれ登録を受けています。

 また、8月には、モントリオール議定書の97年、99年改正の批准も行われ、これに伴い、オゾン層破壊物質の再利用品の貿易規制を導入したり、医薬品の原料として使われるブロモクロロメタンを規制物質に追加するなど、国内制度も整備されました。

 次に、地球温暖化に関しては、6月に京都議定書を批准し、日本はいよいよ温室効果ガスの排出を6%削減する義務を負うことになりました。これを達成するために策定された新しい地球温暖化対策推進大綱では、代替フロン等3ガス、即ち、HFC、PFC、SF6につきましては、自然体より3%減少させ、プラス2%に抑えることとされました。二酸化炭素の排出が大きく増加して、6ガス全体でも6%削減するところを、すでに8%増加し、全体で14%もこれから削減しなければなりません。それに対し、3ガスの排出は、基準年に比べ4割弱も減少するなど順調に進んでいます。これは、産業界の自主行動計画の結果ですが、洗浄分野においても、電子部品等の洗浄の際のPFC・HFCの排出削減に積極的に取り組んでいただきました。

 さらに、化学物質の管理に関しては、PRTR法に基づき、昨年4月から、事業者の皆様に化学物質の排出量等のデータを届け出ていただく制度が始まりました。日本産業洗浄協議会におかれては、洗浄分野における算出マニュアルを策定するなど、事業者の自主管理体制の整備に大きく寄与されました。

 以上のとおり、皆様のご努力により、昨年は様々な分野でかなりの進展があったところですが、まだまだ課題は尽きないようであります。

 まずオゾン層保護に関しては、モントリオール議定書に基づくHCFCの2020年全廃に向けての取組です。工業洗浄分野におけるフッ素系洗浄剤の割合は2〜3%と既に小さくなっておりますが、まだHCFC-141bやHCFC-225も使われておりますので、早期全廃に向け、計画的に転換を進めていかなければなりません。

 また、1999年からCFCの段階的削減が

始まった途上国を支援することも必要です。政府としては、モントリオール基金に毎年40億円弱を拠出して途上国における代替物質への転換を支援しておりますが、カネを出すだけでは能がありません。この40億円の拠出金の2割は二国間支援に活用できますので、皆様の技術、経験を活かして、これをビジネスチャンスにつなげることにより、途上国と日本の両方が利益を得ることができるのではないかと思います。

 こうした意味で、日本産業洗浄協議会が、昨年12月に中国洗浄工程技術合作協会の代表団を受け入れて、技術や経験を伝授したことは、まさに時宜を得た取組でありますし、洗浄総合展示会に韓国からも参加があったことも意義深いいことと存じます。今後ともこうした取組をお願いしたいところであります。

 それから、地球温暖化に関しては、先程申し上げましたとおり、3ガスの削減は順調に進んでおりますが、今後、冷媒や断熱材でHCFCからHFCへの転換が進み、排出も本格化しますので、油断は禁物です。電子部品等の洗浄分野でのPFCやHFCの排出削減についても、引き続き自主行動計画の枠組みの仲で努力を続けていただきたいと考えております。

 日本産業洗浄協議会は、かっては1,1,1-トリクロロエタンおよびCFC-113の全廃という一大プロジェクトを達成されました。最近、NHKの番組“プロジェクトX”が話題になっていますが、産業洗浄分野でのオゾン層破壊物質の全廃対策などは、この番組でも取り上げられてしかるべきプロジェクトではないかと考えます。皆様におかれましては、今後ともぜひ「環境」を「ビジネス」に結びつけて、ますます発展されますことを祈念いたしまして私の挨拶とさせて頂きます。

2. NEDOが「化学物質管理技術審議委員会」を発足

新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は、従来から化学物質について、その総合管理及びリスク削減技術の開発に力を注いで来たが、今回長期的な計画の下に、化学物質管理の高度化を目指して、新しい委員会「化学物質管理技術審議委員会」を発足させ、その第1回会合が2月3日に開催された。

同委員会の検討テーマは、化学物質総合評価管理のプログラムとして、化学物質のリスク評価管理技術体系の構築を行うとされており、以下はその概要である。

2.1 委員会の構成

北野大氏(淑徳大学教授)を委員長とする有識者11名で、当協議会がEVABAT対応委員会でお世話になっている平尾雅彦氏(東京大学大学院工学系研究科化学システム工学専攻助教授)も委員のお一人である。

2.2 目的

環境と調和した健全な経済産業活動と安全・安心な国民生活の実現を図るため、化学物質のリスクを評価し、適切に管理する社会システムを構築する。

2.3 目標

2005年度までに化学物質のリスクの総合的な評価を行いつつ、リスクを適切に管理する技術体系を構築すべく、化学物質のリスクに係る国民の理解増進のための基盤及び国が規制等の施策を講ずる際の手段として、化学物質のライフサイクルにわたるリスクの統合的な評価管理を行うための手法を構築するとともにリスク削減に資するプロセス、手法の開発、知的基盤を整備する。

2.4 研究開発内容

(a) 化学物質総合評価管理

  1. 化学物質のリスク評価及びリスク評価手法の開発
  2. 化学物質排出把握管理促進法対象物質(435物質)のうち高生産量化学物質を中心に評価手法確立のための基礎データを整備するとともに、評価手法を構築する。

  3. 高精度・簡易有害性(ハザード)評価システムの開発
     遺伝子解析手法の活用等により、長期毒性試験に要するコストを百分の一程度に低減する評価手法を構築する。
  4. 既存化学物質安全性点検事業の加速化
     新たに取得するデータ及び既存データを活用して、分解性・蓄積性に係る構造活性相関手法を構築。さらに、生産輸入量が100トン以上の化学物質を中心に、これらの手法等を活用し、早急に対応すべき化学物質について分解性・蓄積性等に関する点検を完了する。
  5. 化学物質総合リスク評価管理システムの管理

化学物質の有害性(ハザード)、暴露、リスク等の基礎情報と各評価手法に係る情報を統合した化学物質総合リスク評価管理情報システムを構築する。 

(b) 化学物質リスク削減技術開発

(1) 次世代化学プロセス技術開発

製造工程の短縮又は有害化学物質を使用・経由しない化学プロセスを実現するため、新規の触媒反応等を利用した新しい反応技術を開発する。

(2) 超臨界流体利用環境環負荷低減技術開発

超臨界流体を反応溶媒とする新しい化学品プロセスを構築するための基盤技術を開発する。

(3) 超臨界流体を用いたダイオキシン等難分解性化学物質の無害化技術開発

超臨界流体の大きな溶解力、強力な分解作用を用いてダイオキシンやPCB等難分解性化学物質を安全かつ確実に分解・無害化する技術を開発する。

<参考資料>

・ NEDO:「化学物質管理技術審議委員会」配布資料」(2003.2.3)

3. 化審法改正に関する最終報告書

経済産業省、厚生労働省、環境省は、化学物質の審査や規制のあり方について検討を続けていたこのほど最終報告書を発表した。

この検討は、経済産業省では「産業構造審議会化学・バイオ部会化学物質管理企画小委員会」、厚生労働省では「厚生科学審議会化学物質制度改正検討部会化学物質審査規制制度の見直しに関する専門委員会」、環境省では「中央環境審議会環境保健部会化学物質審査規制制度小委員会」が行い、意見募集と報告書のとりまとめは三者の合同会合で行われた。

パブリックコメントは昨年12月20日から約1ヵ月間行われ、最終報告書は「今後の化学物質の審査及び規制の在り方について」と題して本年1月30日に公表された。

今後は、この報告書の内容を踏まえ、化学物質審査規制法を改正する法律案が今通常国会に提出される予定である。以下はその概要である(<表:新たな化学物質の審査・規制制度のイメージ>を参照)。

3.1 検討の背景

 化学物質の審査・規制制度を巡る国際的な動向、昨年1月のOECDによる環境保全成果レビューの勧告等を踏まえ、化学物質の環境中の生物への影響に着目した新たな対応とともに、標記の3委員会において、昨年10月より、化学物質の審査・規制制度等についての見直しを検討し、今般、報告を取りまとめた。

3.2 環境中の生物への影響に着目した化学物質の審査・規制について

(1) 生態毒性に関する事前審査の導入

 個別の化学物質が生態系に及ぼす影響の定量的な評価は困難であるものの、特定の生物種を用いた生態毒性試験を活用することにより、生態系への影響の可能性が示唆される化学物質を特定できると考えられることから、化学物質審査規制法の新規化学物質の事前審査において、試験結果を用いて生態毒性の評価を行う。

(2) 生態毒性がある化学物質に対する規制の導入

 生態毒性を有する難分解性の化学物質は、回復困難な環境汚染を生じ環境中の生物に影響を及ぼす可能性を否定し得ない。このため、現状における生態系あるいは環境中の生物への影響に関する評価の可能性等を踏まえつつ、生態系への影響の可能性を考慮した適正管理を促す措置及び生活環境に係る動植物への被害を生ずるおそれがある化学物質に対する製造・輸入期限等の規制を導入する。

◇具体的な措置

① 難分解性で生態毒性を有する化学物質

・ 難分解性で生態毒性を有する化学物質(生態影響監視物質(仮称))に関して、製造・輸入実績数量、用途の届出を義務付け、生態毒性等に関する情報提供措置を導入

・ さらに、生活環境に係る動植物に被害を生ずるおそれが認められる状況に至った場合、現在の第二種特定化学物質と同様に、管理のための指針の遵守、表示を義務付け、必要な場合に製造・輸入予定数量を制限。

② 難分解性に加え高蓄積性を有する化学物質

・ 生活環境に係る動植物のうち高次補食動物に対して一定の毒性を持つものについては、現在の第一種特定化学物質と同様に、可能な限り環境中へ放出されることがないよう製造・輸入、使用を制限。

(3) 関連事項

〇 試験実施体制の整備、調査研究の推進の必要性

〇 良分解性物質への対応(排出段階での取組と官民での毒性データの取得の推進)

3.3 リスクに応じた化学物質の審査・規制制度の見直し等について

(1) 難分解性及び高蓄積性の性状を有する既存化学物質に関する対応

 長期毒性等の有無が明らかになるまでの間も、製造・使用実態等に応じ、法令に基づく一定の管理の下に置く。

◇具体的な措置

・ 製造・輸入実績数量、用途等の届出を義務付け

・ 国が予備的な毒性評価を実施し、一定のリスクが懸念される場合には、事業者に対して環境放出量を抑制するためのリスク低減措置を指導・助言

・ リスク低減措置後もリスクが懸念される場合、製造・輸入事業者に長期毒性等に関する調査を指示し、長期毒性等がある場合には速やかに第一種特定化学物質に指定

(2) 暴露可能性を考慮した新規科学物質の事前審査制度の見直しについて

 環境汚染を通じた暴露可能性が低い新規化学物質については、事前の確認及び事後の監視によりこれが担保されることを前提として、届出対象から除外したり有害性項目に係る審査を段階的に行うといった柔軟な対応を可能とする。

① 暴露の管理による対応

 暴露可能性がない又は極めて低くなるような方法で取り扱われることが確実である以下の場合には、事前審査の対象外とできることとする。

◇ 中間物

◇ 閉鎖系等環境放出の可能性が極めて低い用途で使用される化学物質

◇ 輸出専用品(輸出相手国において事前審査制度が整備されている場合)

② 製造・輸入数量の少ない化学物質に対する段階的な審査による対応

 製造・輸入総量が年間1トンを超える新規科学物質については従来どおり事前審査の対象とするが、事前審査の結果、難分解性ではあるものの高蓄積性ではないと判定された新規化学物質については、製造・輸入総量が年間10トン程度までは、広範囲な地域の環境中に残留することによる暴露の可能性が極めて低いと考えられることから、既知見に基づく人及び環境中の生物に対する毒性の評価を経た上で、毒性試験データの提出を求めず、製造・輸入ができることとする。

(3) 事業者が入手した有毒性情報の取扱いに関する対応

 新規化学物質の判定の見直しや既存化学物質の点検等に活用するとの観点から、化学物質審査規制法の審査項目に係る一定の有毒性を示す情報を製造・輸入事業者が入手した場合には、国への報告を義務付ける制度を創設する。

(4) 既存化学物質の有害性評価・リスク評価の推進

 化学物質全体のリスク管理を考えれば、既存化学物質の評価に関するこれまでの取組状況を踏まえ、事業者及び国は、相互に十分連携しつつ、それぞれの役割に応じて既存化学物質の有害性評価等を計画的に実施していくべき。

3.4 その他関連事項

〇 化学物質管理に係る関連制度間の一層の連携や整合性のある運用

〇 リスクコミュニケーションの促進のための化学物質に関する情報の整備
<参考資料>
・ 経済産業省:「今後の化学物質の審査及び規制の在り方について(関連資料)(2003.1.30)


環境保護情報(2003年1月)

1. 「HFCの責任ある使用原則」を経産省が発表

 経済産業省は、昨年11月29日付けで、米国環境保護庁、国連環境計画、日米等の25事業者団体とともに、HFCの排出抑制のため、責任ある使用のための自主的ルールを策定したことを発表した。以下はその内容である(写真は原文の表紙)。

<写真>「HFCの責任ある使用原則」表紙

1.1 背 景

(1) HFCは、モントリオール議定書に基づき生産・使用の削減が進められているオゾン層破壊物質(特定フロン)の代替物質として、冷凍空調機、発泡断熱材、噴射剤、溶剤(洗浄剤)、消火剤、MDI(喘息等の治療に使用される噴射吸入剤)等の用途に広範に使用されている。

(2) HFCは、低毒性、経済性、安全性、エネルギー効率の点で長所がある。

(3) 一方、HFCは温暖化効果を持つ物質であるため、京都議定書の対象とされており、国際的にその排出抑制が求められている。

(4) このため、関係行政機関及びHFCを製造する事業者団体は、国際的な協調の下、環境、安全、健康、エネルギー効率、経済性といった要因とバランスをとりつつHFCの排出抑制を推進するために、責任をもったHFCの使用のための自主的ルールを策定し、これを実行していくこととした。

1.2 参加団体

<行政機関>

・経済産業省

・米国環境保護庁(EPA)

・国連環境計画(UNEP)

<事業者団体(国内9団体、海外16団体>

・オゾン層保護対策産業協議会

・ウレタン原料工業会

・ウレタンフォーム工業会

・(社)日本消火装置工業会

・日本製薬団体連合会

・(社)日本電機工業会

・(社)日本電子情報技術産業協議会

・日本フルオロカーボン協会

・(社)日本冷凍空調工業会

・海外16団体:アメリカ、カナダ、

オーストラリア、ヨーロッパ、中国

1.3 「HFCの責任ある使用原則」のポイント

(1) HFCは必要な用途を選んで使用する。

(2) 製造から使用、廃棄にわたる各段階において、HFCの排出の最小化とエネルギー効率の最大化を図る。

(3) HFCの回収、再利用、破壊を促進する。

(4) 実用可能な代替物質を検討する。

1.4 HFCの責任ある使用の原則

(1) HFCは先進国及び途上国において、MDI、断熱、冷凍、空調、エアゾール、溶剤(洗浄剤)、消火剤といった重要な用途に用いられている。

(2) HFCはモントリオール議定書に基づくオゾン層破壊物質の段階的削減のために必要である。

(3) HFCは京都議定書の温室効果ガスに含まれる。

(4) HFCは毒性が低く、経済性が高く、安全で、多くの用途において高いエネルギー効率を有する。

(5) 責任ある使用が守られなければ、2050年までにHFCは温室効果ガス総量の2%を占めることになるものと予測されている。

(6) 各国政府、国際的な組織、HFCを製造及び使用している産業界から成るパートナーシップによって、次のような内容の責任ある使用の原則が世界的に適用されることを目指している。

・ HFCは、健康、安全、環境、技術、経済、その他公益に資する用途を選んで使用すること。

・ 化学品製造工程及び機器の使用・廃棄時のHFC排出については、費用対効果の高い技術を用いて、現実的な範囲で最小のレベルまで抑制すること。

・ HFC製造プラントは、HFC排出量ゼロの目標をもって設計・操業すること。

・ HFCを使用するシステムは、排出量を最小に、エネルギー効率を最大にするよう設計、操業、維持すること。

・ 技術的及び経済的に実用的な場合には、使用済みHFCについて、回収・リサイクル・再生・破壊を行うこと。

・ HFC処理についての包括的な技術者訓練を充実させ、法令上の規制や運用基準の遵守を担保するようにすること。

・ HFCに係る機器の設置及び整備、HFCの運搬及び保管に際しては、諸基準を遵守し、適切な場合には基準を超えて行うこと。

・ HFCの製造の正確な届け出をするとともに、正確に排出量を推計するモデルを開発すること。

・ 技術・環境・経済の面で実用的な代替物質を検討すること。

1.5 社会にとってバランスのとれた手法としてのHFC

(1) 国の気候変動プランは、包括的アプローチにより、HFCを含む6種類の温室効果ガスの排出を抑制することとしている。HFCに関するプランは、環境・安全・健康・エネルギー効率・経済といった要因と十分にバランスがとれたものであるべきである。

(2) Life Cycle Climate Performance(生産から廃棄までのライフサイクルにおける温暖化効果の評価)を冷凍・空調・断熱における環境への影響を評価するために採用すべきである。

(3) HFCの排出抑制は、既に自主的取組や政府-産業界間のパートナーシップによって効果が生じてきている。このパートナーシップは、研究、コミュニケーション、その他の活動に共同して取組むことにより、新たな技術、設計、工程を開発し、エネルギー効率やコストを含んだ、製品としての総合的な能力を高めることを目的としている。

(4) モントリオール議定書に基づく国連環境計画(UNEP)の技術経済アセスメントパネル(TEAP)では、途上国において現在行われている、安全かつ費用対効果の高いCFCの削減のためには、HFCが重要であると結論づけられた(1999年)。HFCは、オゾン層破壊物質の代替物質として不可欠であり、かつ、先進国及び途上国におけるHCFCの削減のためにも、技術的かつ経済的な観点で必要なものとなっている。

(5) 気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第三次アセスメントレポート(2001年)では、HFCの排出抑制策の選択肢が記されるとともに、いくつかの用途で用いられるHFCについて、技術的かつ経済的に実用性のある代替物質がない旨結論づけられた。

(6) EUから気候変動枠組条約(UNFCCC)に対し、「HFCの排出抑制のために採られる措置は、オゾン層破壊物質を削減するための努力を無にするものであってはならない」旨表明された(1999年7月)。

(7) アーサー・D・リトルによるレポート(Global Comparative Analysis of HFC and Altenative Technologies : 2002年)では、HFCは技術・環境・安全の全ての点でオゾン層破壊物質に勝る長所を持った望ましい代替物質であると評価された。

1.6 区分毎の個別の原則

(1) HFCの生産

・ 最高水準の企業責任により労働者とコミュニティの安全性を確保する。

・ 製造のすべての段階、輸送中、貯蔵中の製品の安全性を確保する。

・ プラント設計における漏れ排出量ゼロを目標とする。

・ 技術的、経済的に可能であれば、副産物の排出量を最低限に抑える。

・ 利用者による回収、再利用を奨励する。

・ 使用に適さないHFCの破壊を促進する。

・ 健康上、安全上、環境上、技術上または経済上のメリット、あるいは独自の社会的メリットのある用途向けにHFCを市販する。

・ 大気中の濃度変化の総合的モデル作りをサポートするために、フルオロカーボンの製造と販売のデータを公表する。

(2) 冷凍・空調

・ 密閉された冷凍システムや容器に冷媒を封じ込めることにより、大気中への放出を最少限に抑える。

・ 据付け後の監視を奨励することにより、冷媒の排出量を最少限に抑え、且つ、エネルギー効率を維持する。

・ すべての従業員に冷媒の適切な取り扱いに関する訓練を施す。

・ 冷媒の安全性、適切な据付けと維持に関する規格(例:ASHRAE-15 、ISO-5149)を遵守する。

・ エネルギー効率が最適になるように、設計・選択・据付け・操作を行う。

・ 冷媒の回収、再利用、精製を行う。

・ 費用対効果を考慮して、機器のエネルギー効率の改善を続ける。

(3) 消火

・信頼性が高く、排出量ゼロ(消火に使用する時を除く)を目標とする消火製品を提供する。

・ 消火システムの設計、据付け、発注、検査、維持に関して厳しい規格を設ける。

・ 排出量を最低限に抑える進んだ火災検知システム、消火システムを提供する。

・ テストや訓練による排出量を最低限に抑え、可能であれば、排出量をゼロにする。

・ 消火剤の回収、再利用、精製を行う。

(4) 発泡断熱材

・ 省エネに対する社会的ニーズを満たし、二酸化炭素(CO2)の排出量を最低限に抑えるために、安全で、エネルギー効率の高い断熱製品を提供する。

・ 廃棄時排出量を最低限に抑えるために、技術的、経済的に実施可能であれば、断熱材の再利用を促進する。

・ 商業的に実施可能な技術に基づき、発泡断熱材の製造時排出量を最低限に抑える。

(5) 家庭用冷蔵庫

・ 密封されたシステム、容器に冷媒を入れ、大気中への放出を最低限に抑える。

・ 冷媒の回収、再利用、精製を行う。

・ 技術的、経済的に実施可能であれば、廃棄時排出量を最低限に抑える。

・ すべての従業員に冷媒の適切な取り扱いに関する訓練を施す。

・ 事業者は、使用時の省エネ(エネルギー効率の最適化)を考慮した設計に努める。

・ 冷蔵庫製造時の排出量を最低限に抑える。

(6) 噴射剤

・ 健康上、環境上、技術上又は経済上メリットのあるHFC噴射剤を使用する。

・ 十分に訓練された従業員に取扱いを委ねる。

・ 容器への充填中の損失を最小限に抑える。

(7) 溶剤(洗浄剤)

・ 環境への影響が社会的メリットによって相殺できる場合にHFC溶剤(洗浄剤)を使用する。

・ 経済的に実施可能な最低レベルの排出量を実現する。

・ 密閉されたシステムを利用し、労働者の健康と安全を頻繁に監視する。

・ 溶剤(洗浄剤)の回収、再利用、精製を行う。

・ 取り扱いに関わるすべての従業員を訓練する。

(8) カーエアコン

・ 密閉システムに空調用冷媒を封じ込めて、大気中への放出を最少限に抑える。

・ すべての冷媒の回収、再利用、精製を行う。

・ サービス要員に空調用冷媒の適切な取り扱いに関する訓練を施す。

・ 冷媒充填量を低減するように設計する。

・エネルギー効率が最大になるよう、設計・据付け・操作を行う。

・ 自動車のエアコンに冷媒を初期充填する際の冷媒漏れを最少限に抑える。

・ あらゆる代替物質・技術の調査研究・開発・評価を継続する。

・ 修理又は廃棄時に冷媒回路を開く場合は、冷媒の回収・再利用を奨励する。

・ 再充填前に、修理を行うよう奨励する。

<参考資料>

・ 経済産業省:「「HFCの責任ある使用原則」の策定について(米国環境保護庁と同時発表)」(2002.11.29)

・ 原文:「Responsible Use Principles for HFCs」(2002.11)

2. 日本レスポンシブル・ケア協議会の2002年度報告書

 日本レスポンシブル・ケア協議会(JRCC)は、「レスポンシブル・ケア報告書2002」を昨年11月に発表した。

2.1 レスポンシブル・ケア活動とは

 レスポンシブル・ケア(RC)活動とは、環境省編集の「平成13年版環境白書」では、以下のように説明されている。

 “化学物質を製造し、または取り扱う事業者が、自己決定・事故責任の原則に基づき、化学物質の開発から製造、流通、使用、最終消費者を経て廃棄に至る全ライフサイクルにわたって「環境・安全」を確保することを経営方針において公約し、安全・健康・環境面の対策を図っていく自主管理活動”

 

<写真1>同報告書の表紙

 日本レスポンシブル・ケア協議会は、その活動の中で、特に“活動の成果を公表し社会との対話・コミュニケーションを行う活動”を強調している。

同協議会は1995年、社団法人日本化学工業協会の中に、化学物質を製造し、または取り扱う企業74社が中心となって設立され、会員数は2002年10月現在、114社である。

2.2 JRCC活動計画と実施状況

 JRCCは、中期計画(2001〜2005)で、以下の4つの重点課題を設けている。また、2001年度の活動計画、その実施状況、2002年度の計画を表1のように発表している。

① RC活動の透明性を高め、情報開示と社会とのコミュニケーションを促進する。

② RCの普及活動を行う。

③ アジアにおける指導的役割を果たす。

④ パフォーマンスの継続的改善を行う。

表1.JRCC活動計画と実施状況

2.3 有害大気汚染物質の削減

有害大気汚染物質の削減対策は、JRCCの主要活動の一つであるが本件は、政府、産業界共同の大きな目標となっている。

事業活動に伴う有害大気汚染物質の大気中への排出については、大気汚染防止法で規定されており(大気汚染防止法第18条の21)、経済産業省と環境省は、その趣旨を踏まえて、12物質(現在は13物質)を対象とした自主管理指針を策定し、関係者団体に「自主管理計画」の策定を要請した。

 2001年度の結果は、化学品審議会リスク管理部会で報告されたが、JRCCが報告した塩素系洗浄剤の結果は図の通りである。

2.4 国際活動

RCは、国際化学工業協会協議会(ICCA)の中に設置された作業グループの一つであるレスポンシブル・ケアリーダーシップグループ(RCLG)を中心に世界で推進されており、2002年8月中旬のRCLGヨハネ

スブルク会議で、新たにベネズエラの加盟が承認され、現在47ヵ国で展開されている。

 RCについての世界の共通認識として、以下の文章が2002年4月に発表されている。

 “RCは、以下の事項に共に取り組むために各国化学工業協会の加盟会員会社の宣誓に基づいて行う世界の化学産業の自主管理活動である。

・ 我々の取り扱う化学物質の全ライフサイクル及び製造工程にわたる人や環境の保護活動の中で加盟会員会社並びに化学産業の成果の継続的な向上を図る。

・ 活動全体を通じて地域や社会の持続可能な開発へ貢献する。

・ 我々の製品及び活動のリスクと便益、我々の成果、実績、今後の課題について社会へ公表する。

・ 社会の懸念や期待事項を理解し、それに適うべく努力するために地域、国、国際レベルで我々の利害関係者と対話し行動する。

・ 施行されている法律や基準の実施や法律の策定など全ての過程において政府や関係機関と協力すると共に、それらの要求事項を遵守、あるいはそれ以上のより厳しいレベルで管理する。

 

・ 化学物質を取り扱う全ての事業者へRCを普及拡大する。”

2.5 「ヨハネスブルグ・サミット」での評価

ICCAは、隔年に発行する報告書として、2002年7月に、「Responsible Care Status Report 2002(RC実施報告書2002)」を発表した4)

同報告書は、2002年8月にヨハネスブルクで開催された“「持続可能な開発に関する世界首脳会議」(ヨハネスブルグ・サミッ

 

ト)”で、高く評価され、「持続可能な開発パートナーシップのための世界サミットビジネス賞」を受賞した(写真2)。

<参考文献>

1) 日本レスポンシブル・ケア協議会:「レスポンシブル・ケア報告書2002」(2002.11)

2) 環境省編「平成13年版環境白書」(2001.5)

3) JRCCホームページ

http://www.nikkakyo.org/organization/jrcc/index.html

4) ICCA:「レスポンシブル・ケア実施報告書2002」

http://www.icca-chem.org/rereport/

5) 環境省編「平成14年版環境白書」(2002.5)

<写真2>ICCAの「RC実施報告書2002」


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